隠密?
詰所を出た後、四人はしばらく無言だった。
資料保管庫。
商業ギルド本部の裏。
言葉の重さが、少しずつ体に馴染んでくる。
「……本当に、入るの?」
レナが呟く。
「ガインは、手引きするとは言ってた」
「でも、見つかったら?」
「ただじゃ済まないだろうな」
ユノは、あえて軽く答えた。
不安を煽っても、意味がない。
「一度、宿に戻ろう」
「準備、しっかりしておきたい」
宿の部屋に戻ると、ティナが荷物を整理し始めた。
「……夜目が利く薬草がある」
小瓶を取り出す。
「クルクル村で、教わった調合」
「便利だな、それ」
「多くは作れない。今回は、これだけ」
三本の小瓶が、机に並んだ。
レナは、自分の杖を確認していた。
「……音を立てない魔法、練習しておく」
「風で足音を消すやつ、できそう?」
「たぶん。まだ不安定だけど」
小さく息を吐き、集中する。
杖の先に、淡い風が渦を巻いた。
「……よし、なんとなく掴めた」
ラグナルが、机の上でうろうろしていた。
小さな体で、何かを訴えるように鳴く。
「お前は、留守番だ」
ユノが言うと、明らかにしょげた様子を見せた。
「……悪いな。今回は、目立ちすぎる」
黒い鱗と、小さな翼の芽。
暗闇でも、その存在感は隠しきれない。
ラグナルは、渋々といった様子で丸くなった。
ウールが、その横にふわりと浮かぶ。
慰めるように、寄り添っていた。
夜が近づく。
窓の外、ヘルメリアの明かりが、少しずつ灯り始めていた。
昼間の賑わいとは違う、静かな緊張感。
「……時間だ」
ユノが立ち上がる。
三人も、それに続いた。
指定された場所――大通りから外れた路地の入り口。
そこに、ガインが待っていた。
「準備はいいか」
「ああ」
ガインは、四人を見渡し、小さく頷いた。
「じゃあ、行くぞ」
「保管庫の裏口まで、案内する」
夜のヘルメリアへ、一歩を踏み出した。




