力関係
「意図的に、って言っても」
ユノが口を開く。
「商業ギルドの中で、そんなことする意味があるのか?」
ガインは、小さく息を吐いた。
「お前ら、まだこの街のことをよく分かってないな」
「ヘルメリアは、商業ギルドが街そのものだ」
「……そんなに?」
レナが目を丸くする。
「領主はいるが、実質的な運営は商業ギルドが握ってる」
「税、流通、治安維持の一部まで、な」
「冒険者ギルドも、商業ギルドの許可がなきゃ、この街で大きく動けない」
その言葉に、ユノは少し驚いた。
昨日の光景を思い出す。
赤、青、黒。
三つの腕章が、表通りを堂々と歩いていた。
あれは、単なる商人同士の縄張り争いではなかった。
「……つまり」
ユノが言葉を選びながら言う。
「商業ギルドの派閥争いは」
「そのまま、街全体の力関係に直結する」
ガインが頷いた。
「その通りだ」
「イフリル、モイスト、ベータ」
「三つの派閥のバランスで、この街は成り立ってる」
「どこか一つが突出すれば」
「街そのものの形が、変わる」
ティナが、静かに口を開いた。
「……だから」
「揉め事を、意図的に起こす意味がある」
ガインが、ティナを見る。
「察しがいいな」
「バランスを崩したい奴がいるとしたら」
「これほど効率のいい方法はない」
部屋に、沈黙が落ちる。
レナが、少し不安げにユノを見た。
「……私たち、思ってたより大きなことに関わってるのかも」
「かもな」
ユノは、地図を見つめたまま答えた。
「けど」
「今更、引けないだろ」
昨日の、檻の中の子供の目を思い出す。
光のなかった、あの目。
「……そうだね」
レナが小さく頷く。
ガインは、そんな四人を見て、少しだけ表情を緩めた。
「……お前ら、本当に変わってるよ」
「普通の冒険者なら、とっくに逃げてる」
「褒めてるのか?」
「さあな」
軽く肩をすくめる。
そして、真剣な顔に戻った。
「次にやるべきことがある」
「揉め事の裏に誰がいるのか」
「それを探るために、動いてほしい場所がある」
地図の一点を、指で示す。
「商業ギルド本部――その裏にある、資料保管庫だ」




