揉め事?
冒険者ギルドは、朝からそれなりに賑わっていた。
依頼の紙が貼られた掲示板の前に、何人かの冒険者が集まっている。
「……クエスト、見てみようか」
ユノが掲示板に近づく。
いつも通りの依頼が並んでいた。
魔物討伐。
薬草採取。
護衛任務。
だが、その中に、いくつか見慣れない張り紙があった。
『商業ギルド関連トラブル、対応可能な冒険者求む』
『倉庫警備、急募』
『高額報酬・即日払い』
「……多いな、これ」
ユノが眉を寄せる。
受付の女性に聞いてみることにした。
「すみません、これ……最近増えてるんですか?」
「ええ、ここ半月くらいで急に」
受付嬢が、少し困ったように笑う。
「商業ギルドさんの方で、何かごたごたがあるみたいで」
「詳しいことは私たちも……」
言葉を濁す。
冒険者ギルドとしても、深入りしたくない様子だった。
「……半月前」
レナが小さく呟く。
「私たちがヘルメリアに着く、少し前だね」
ティナが薬草の袋を握りながら言う。
「……街の人も、気づき始めてる」
「表には、まだ出てないけど」
その時。
「よう」
聞き覚えのある声。
振り返ると、ガインが立っていた。
「早いな」
「そっちこそ、いつも急に現れるな」
ユノが返す。
ガインは軽く笑い、それから表情を引き締めた。
「話がある。詰所まで来れるか」
「今度は何だ」
「昨日のことの、続きだ」
短く言う。
その言葉に、四人は顔を見合わせた。
冒険者ギルドを出て、案内されたのは、大通りから少し外れた場所にある建物だった。
「ここが、モイストの詰所?」
「表向きはただの商会事務所だ」
ガインが扉を開ける。
中は、思ったより質素だった。
壁には、ヘルメリアの地図。
いくつかの場所に、印がつけられている。
「座ってくれ」
促されるまま、椅子に腰掛ける。
ガインは、少し間を置いてから口を開いた。
「単刀直入に言う」
「最近、うちとイフリルの間で、揉め事が増えてる」
「昨日みたいなのが、頻繁に起きてる」
「……頻繁って、どれくらい?」
ユノが聞く。
「この一ヶ月で、十件以上」
「普通じゃない数だ」
ガインの声が、わずかに硬くなる。
「今までは、多くても月に一、二件だった」
レナが眉をひそめる。
「急に増えた、ってこと?」
「ああ」
「しかも……全部、荷の扱いを巡る揉め事だ」
「昨日みたいな?」
「そうだ」
ガインは、地図の印を指でなぞる。
「場所も、なんとなく偏ってる」
「商業ギルドの倉庫が集まってる区画ばかりだ」
ユノは、地図をじっと見つめた。
印の位置。
数。
タイミング。
何かの意図を感じたが、まだ、はっきりとした形にはならなかった。
「……お前は、どう思ってる」
ユノが聞く。
ガインは、少し考えるように黙った。
「まだ、確証はない」
「ただの偶然かもしれない」
「けど?」
「けど、俺には……誰かが、意図的に何かをしてるように見える」
その言葉に、部屋の空気が、少しだけ重くなった。




