異変
翌朝。
ヘルメリアの空は、昨日よりも少しだけ穏やかに見えた。
「……お腹すいた」
レナが真っ先に言う。
「昨日、あんまり食べてなかったもんな」
ユノも頷いた。
宿を出て、大通りを少し歩く。
香ばしい匂いが漂ってきた。
串焼きの屋台。
肉の焼ける音が、食欲をそそる。
「これ、四本ください」
レナが元気よく注文する。
店主が、慣れた手つきで炭火から串を取り出す。
「毎度! ヘルメリア名物、岩塩焼きだよ」
パリッとした音とともに湯気が立つ。
「……美味しい」
ティナが小さく呟く。
普段あまり感情を表に出さない彼女が思わず頬を緩めた。
ラグナルも匂いに反応して肩の上でそわそわしている。
「お前も食べるか?」
小さく一切れ分けてやると勢いよく食いついた。
満足そうに喉を鳴らす様子にレナが笑う。
「ラグナル、本当に食いしん坊だね」
「……昨日の今日だからな」
ユノも、少しだけ気が緩むのを感じた。
倉庫での緊張がまだ体のどこかに残っていた。
こういう時間が思ったより効く。
しばらく歩くと、露店が並ぶ通りに出た。
「見て、この布……綺麗」
レナが足を止める。
異国風の織り模様。
「ヘルメリアは交易の街だからな」
「いろんな国のものが集まる」
店主が愛想よく声をかけてくる。
「お嬢さん、それ北の国の織物だよ。寒い地方の柄は、こっちじゃ珍しいだろう」
「へえ……」
レナが布地を広げて見入る。
ティナは少し離れた場所で薬草を扱う店を眺めていた。
「……これ、傷薬になる」
小さな束を手に取る。
「買っておく?」
「うん」
数枚の銅貨を払い袋に詰めてもらう。
「最近、こういうの多く出てるんだよ」
薬草屋の店主がふと漏らす。
「……多い?」
ティナが顔を上げる。
「怪我人が増えてるんだろうね。ここ最近街の空気もどこか荒れてる」
それ以上は店主も詳しくは言わなかった。
ただ忙しなく次の客の対応に戻っていく。
ティナは小さく袋を握りしめた。
日常のなんでもない時間。
だが、その中にも街の変化がわずかに滲んでいた。
ユノはそれに気づいていた。
だが、今はまだ何も言わなかった。
もう少しだけ、この時間を続けたかった。
「……そろそろ、ギルドにでも顔出すか」
「そうだね」
四人は緩やかに歩き出した。
だがその足取りは、来た時よりも少しだけ慎重だった。




