運んでいるもの
ユノたちは、男の背中を追って歩き出した。
表通りの喧騒が、少しずつ遠ざかっていく。
路地に入るたび、人の数が減っていく。
代わりに、影が濃くなる。
「……ここ、さっきまでと全然違う」
レナが小さく声を漏らす。
看板の文字も色褪せ、呼び込みの声もない。
かわりに、ものを運ぶ荷車の音だけが響いていた。
「名前も聞いてなかったな」
ユノが前を歩く男の背に言う。
男は振り返らずに答えた。
「……ガイン」
「商業ギルド、青派閥の……何番目だ?」
「下から数えた方が早い」
そっけない答え。
だが、隠す気もないらしい。
しばらく歩くと、古びた倉庫の前で足を止めた。
扉には鍵。
だが、ガインは慣れた様子で裏の小さな戸を開ける。
「入れ」
薄暗い倉庫の中。
積まれた木箱の隙間から、埃が舞う。
「……ここが?」
「荷の一部を、先に移しておいた」
ガインが木箱の一つに手をかける。
蓋を開けると――
中には、小さな檻。
そして。
「……っ」
ティナが息を呑んだ。
檻の中にいたのは。
幼い、獣人の子供だった。
腕には、拘束の痕。
目には、光がなかった。
「……こんなの」
レナの声が震える。
ユノは拳を強く握った。
「これが……“普通じゃないもの”か」
ガインは静かにうなずく。
「表向きは“希少な素材”として運ばれてる」
「赤も、これに絡んでる」
「だが、まだ確証がない」
「証拠を、掴みたい」
低く、抑えた声だった。
だが、その奥に確かな怒りがあることに、ユノは気づいた。
「……だから俺たちを」
「ああ」
ガインがユノを見る。
「お前ら、ギルドタグは持ってるな」
「冒険者なら、ギルドの外から動ける」
「商業ギルドの人間じゃ、派閥の目がある」
「……つまり、都合がいい駒ってわけか」
ユノが皮肉っぽく言う。
ガインは否定しなかった。
「悪いか」
「……いや」
ユノは檻の中の子供を見た。
「理由としちゃ、十分だ」
その言葉に、レナが小さく頷く。
ティナは檻に近づき、そっと手を伸ばした。
震える指先が、格子に触れる。
「……大丈夫」
小さく、囁くように。
子供の目に、わずかな光が戻った気がした。
その時――
倉庫の外で、物音がした。
ガインの表情が、瞬時に変わる。
「……来たか」
低く呟く。
「誰が」
ユノが身構える。
「決まってる」
ガインが扉の隙間から外を覗く。
「赤だ」




