ヘルメリア
丘を越えた、その先で。
ユノたちは、思わず足を止めた。
「……でかいな」
目の前に広がっていたのは、これまで見てきたどの街よりも大きな都市だった。
高くそびえる外壁。広く開かれた門。
その向こうから、溢れ出る人の流れ。
「……すごい」
レナが小さく息を呑む。
門の外まで、荷車を引く商人や旅人の列が続いている。
積まれているのは、布、木箱、金属、見たことのない素材。
人だけじゃない。
様々な姿の愛獣たちも、当たり前のようにその中に混ざっていた。
「……ここが」
ユノが呟く。
「ヘルメリア」
三人は門をくぐる。
その瞬間――
音が、一気に押し寄せてきた。
「安いよ安いよ!」
「珍しい品だ、見ていけ!」
「今ならまとめてこの値段だ!」
叫び声、呼び込み、笑い声。
熱気が肌にぶつかる。
「……すごい」
ティナが小さく言う。
視線が落ち着かない。
無理もない。
通りの両側には、店がびっしりと並んでいた。
食べ物、布、装飾品、武器、防具。
種類も量も、今までとは比べものにならない。
「……全部売ってんのか」
ユノが思わず呟く。
「見てるだけでお金なくなりそう」
レナが苦笑する。
それでも目は輝いていた。
歩くだけで楽しい。
そんな空気があった。
そのとき。
ティナが、ぴたりと足を止める。
「……?」
ユノが振り返る。
ティナは少し奥の方を見ていた。
「……あっち」
指差す先。
人の流れが、わずかに変わる場所。
通りが少し狭くなり、建物も古くなる。
だが、それ以上に――
空気が違う。
「……裏だな」
ユノが低く言う。
「……なんか、ちょっと怖い」
レナが小さく言う。
店に並ぶものも違う。
黒い布、奇妙な形の道具、見たことのない薬。
そして。
そこにいる人間の視線。
値踏みするような目。
「……」
ティナが、わずかにユノの服を掴む。
「……行かない方がいい」
小さな声だった。
「……分かってる」
ユノも同じことを感じていた。
あそこは“違う場所”だ。
同じ街の中なのに。
「……まずは表だな」
そう言って、視線を戻す。
再び明るい通りへ。
人の流れに紛れる。
「……なんでもありそうだね」
レナが言う。
「ああ」
ユノが答える。
少しだけ、間を置いて。
「……なんでも、あるんだろうな」
その言葉には、少しだけ意味が込められていた。
表も。
裏も。
全部含めて、この街だ。
ヘルメリア。
商人たちの街。
そして――
欲望が集まる場所。




