行き先
クルクル村を出て、しばらく。
背後にあった土の匂いは、ゆっくりと薄れていった。
代わりに広がるのは、乾いた風と草のざわめき。
道は細く、静かだった。
前を歩くのはユノ。
その少し後ろにレナ。
そして、さらに半歩遅れて――ティナがいる。
並びは増えた。
だが、空気はまだ少しぎこちない。
誰も、それを口には出さない。
「……疲れてないか」
ユノが前を向いたまま言う。
ティナは一瞬だけ間を置いてから答えた。
「……大丈夫」
短い言葉。
それ以上は続かない。
レナが振り返って、少しだけ笑う。
「無理してない?」
「……してない」
今度は少しだけ早く返ってきた。
そのやり取りに、ほんの少しだけ空気が柔らぐ。
また歩き出す。
風が草を揺らす音だけが続く。
しばらくして。
ティナが、ぴたりと足を止めた。
「……?」
ユノが振り返る。
「どうした」
ティナは前を見たまま、小さく言った。
「……何かいる」
その声は小さいが、迷いはなかった。
ユノはすぐに周囲を見る。
草むらの奥。
わずかに揺れている。
「……あそこか」
ゆっくりと近づく。
構えを取る。
だが――
飛び出してきたのは、小さな獣だった。
こちらに気づくと、すぐに方向を変えて走り去る。
「……ただの獣か」
ユノが息を抜く。
だが、すぐにティナの方を見る。
「気づくの早いな」
ティナは少しだけ視線を逸らした。
「……なんとなく」
またその言葉。
だが、今度は違った。
“なんとなく”の中に、確かな感覚がある。
レナも同じことを感じていた。
「すごいよ、それ」
ティナは少しだけ驚いた顔をして、何も言わなかった。
その代わり、小さくうなずく。
再び歩き出す。
さっきよりも、少しだけ距離が近くなっていた。
そのとき。
ティナの視線が、足元に落ちる。
ウールだった。
ふわりと、揺れている。
じっと見ている。
「……?」
レナが気づく。
「どうしたの?」
ティナは少しだけ迷ってから、言った。
「……この子」
ウールを指す。
「……変」
レナが苦笑する。
「まあ、ちょっと変だけどね」
「……違う」
ティナが首を振る。
「……よく分からないけど」
「……普通じゃない」
その言葉に、ユノは何も言わなかった。
ただ、ウールを見る。
いつも通り、何もしていない。
それなのに。
何かが引っかかる。
「……」
言葉にはできない。
だが、その違和感だけは残った。
「……行くぞ」
ユノが言う。
「うん」
レナが答える。
ティナも、小さくうなずく。
三人は再び歩き出す。
風が吹く。
空は広い。
少しずつ。
本当に少しずつ。
距離が縮まっていく。
まだ知らないことばかりの仲間と。




