焼き物の村
クルクル村の中に入ると、空気が少しだけ変わった。
タブリスとは違う、落ち着いた空気。
人の声もあるが、どこかゆったりしている。
「……いい匂いするね」
レナが鼻をひくつかせる。
土の匂い。それに混ざる、焼けたような香ばしい匂い。
視線を巡らせると、すぐに理由が分かった。
家の外に並べられた壺や皿。
まだ色がついていないものもあれば、綺麗な模様が描かれているものもある。
さらに奥には、大きな窯。
中で火が揺れ、熱が空気を歪ませていた。
「……全部、ここで作ってるのか」
「すごいね」
通りを歩くと、村人たちが自然に声をかけてくる。
「旅人かい?」
「タブリスからか?」
警戒というより、興味。
どこか温かい視線だった。
「少し寄らせてもらおうと思って」
ユノが答える。
「いいさ、ゆっくりしていきな」
軽く笑って返される。
そのやり取りだけで、この村の雰囲気が分かる。
「……優しいね」
「だな」
歩きながら、焼き物を眺める。
同じように見えるが、よく見ると少しずつ違う。
形、模様、色合い。
「全部、手で作ってるんだろうな」
「だから違うんだね」
そのとき。
昨日見た、あの子供がいた。
建物の陰から、こちらを見ている。
視線が合う。すぐに逸らされる。
「……やっぱり気になるね」
レナが小さく言う。
「ああ」
さっきよりも、少しだけよく見えた。
耳の形。ほんの少しだけ、人間と違う。
だが――
周囲の村人は、何も気にしていない。
普通に、同じように生活している。
「……この村では普通なんだな」
「うん」
その子供は、少しだけ迷ったあと。こちらに近づいてきた。
警戒しながら、一歩ずつ。
「……こんにちは」
レナが優しく声をかける。
子供は少しだけ驚いた顔をする。
それから、小さくうなずいた。
「……こんにちは」
声は、普通の子供と変わらない。
「ここ、初めて?」
「うん」
短い会話。
だが、少しだけ距離が縮まる。
そのとき。
「おーい」
奥から声がかかる。
村人の一人が手を振っていた。
「そろそろ昼だ、食ってくか?」
気軽な誘い。
ユノとレナは顔を見合わせる。
「……いいのかな」
「いいんじゃねえか」
「じゃあ、お言葉に甘えて」
子供はその様子を、少し離れた場所から見ていた。
表情は読めない。
ただ、ほんの少しだけ、安心したように見えた。
クルクル村。
焼き物と、人の温かさに満ちた場所。
だが、その中には。
ほんのわずかな違和感が、確かに存在していた。




