クルクル村
タブリスを出て、どれくらい歩いただろうか。
街の喧騒はすっかり遠ざかり、聞こえるのは風の音と足音だけになっていた。
「……静かだな」
ユノがぽつりと呟く。
「うん、タブリスと全然違うね」
レナも周囲を見渡す。
道は緩やかに続いている。
両脇には低い丘と、ところどころに岩が点在していた。
人の気配は薄いが、完全に途切れるわけでもない。
時折、荷を運ぶ旅人や商人とすれ違う。
足元ではウールが、相変わらずふわふわとついてくる。
レナの肩にはモチ。
そしてユノの肩には、ラグナル。
「……なあ」
ユノが口を開く。
「なんか、足りない気がしないか」
レナが少しだけ笑う。
「……レオでしょ」
「……やっぱり分かるか」
「うん」
少しの沈黙。
風が吹く。
「一緒に来てほしかったな」
ユノが正直に言う。
レナは少しだけ考えてから答えた。
「でも、あの人はあの人でやることあるんじゃない?」
「……だな」
ユノもすぐにうなずく。
あの工房。
あの親方。
あの空気。
あそこにいる意味は、確かにあった。
「そのうち来るって言ってたしね」
「気まぐれで来そうだな」
「うん、なんか急に来そう」
二人で少し笑う。
道はゆるやかに下り始める。
遠くに、少しだけ煙が見えた。
「……あれか」
「たぶん村だね」
近づくにつれて、形がはっきりしてくる。
低い建物が並び、そのいくつかから煙が上がっている。
「……なんか、タブリスとまた違うね」
「だな」
村に入る前から、独特の匂いがした。
土と、焼けた何かの匂い。
「……これ、窯か?」
「焼き物?」
さらに近づく。
建物の外に並べられた壺や皿が目に入る。
どれも形が整っていて、同じような模様が施されている。
「……窯業の村か」
「クルクル村って書いてあったよね」
「それだな」
村の入口に立つ。
大きくはないが、しっかりと人が暮らしている気配がある。
そのとき。
横を、小さな影が走り抜けた。
「……?」
思わず目で追う。
子供だった。
だが――
「……今の」
レナが小さく呟く。
ユノも見ていた。
耳。
人間とは少し違う形。
ほんのわずかだが、特徴があった。
「……気づいたか」
「うん」
その子供は、少し離れたところで立ち止まり、こちらをちらりと見た。
警戒しているような目。
だが、すぐに視線を逸らす。
そして、そのまま村の奥へ走っていった。
「……人間じゃないよね」
「たぶんな」
ほんの少しの違和感。
でも、それは確かにあった。
周囲を見渡す。
村の人たちは、普通に生活している。
特別な様子はない。
だが――
さっきの子供の視線が、少しだけ引っかかった。
「……行くか」
「うん」
ユノとレナは、クルクル村へと足を踏み入れた。
焼き物の匂いと、穏やかな空気。
その中に、ほんのわずかな違和感を残したまま。




