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始まりの村と小さな竜  作者:


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20/32

気持ち

タブリスの朝は、いつもより少しだけ静かに感じた。

 出発の日。

 宿の部屋で、ユノは荷物を確認していた。

 食料、水、回復薬。

 そして――腰には、新しい剣。


「……忘れ物ない?」

 レナが聞く。

「たぶん大丈夫だ」

 軽くうなずく。


 これで準備は整っている。

 あとは、出るだけ。


「……行こうか」

「うん」


 宿を出る。

 街はまだ完全には動き出していない。

 人の数も少なく、どこか落ち着いた空気が流れている。


 そのまま門へ向かう。

 だが――


「……あ」

 レナが足を止める。


 前方。

 見覚えのある姿が、そこに立っていた。


「……遅いぞ」

 レオだった。


「お前、なんでここに」

 ユノが言う。


「なんでって……」

 少しだけ言葉に詰まる。

 それから、肩をすくめる。


「渡すもんがあったからだよ」


 そう言って、持っていた布に包まれたものを差し出す。


「……これ」

 レナが受け取る。

 布を開く。


 中から現れたのは、一本の杖だった。


「……え」


 思わず声が漏れる。


 細身の木製の杖。

 先端には、小さな石が埋め込まれている。

 派手さはない。

 だが、手に取った瞬間――


「……軽い」

 レナが呟く。


 不思議と手に馴染む。

 魔力が、流れやすい感覚。


「余った素材で作った」

 レオが何でもないように言う。


「……でも」

「いいから持っとけ」


 少しだけぶっきらぼうに言う。

 だが、その視線はどこか落ち着かない。


「あとこれ」

 もう一つ、別の包みを差し出す。


 中には、簡素な胸当て。

 軽くて動きやすそうな作り。


「防具も、あった方がいいだろ」


 レナは言葉を失っていた。


「……いいの?」

「いいって言ってんだろ」


 少しだけ照れたように顔を逸らす。


「どうせ素材余ってたしな」


 明らかに、理由はそれだけじゃない。


「……ありがとう」

 レナが静かに言う。


 レオは一瞬だけ顔を上げて、それからすぐに視線を逸らした。

「……別に」


 そのやり取りを、ユノは横で見ていた。


「……お前さ」

 少しだけ笑う。

「最初から作るつもりだったろ」


「……」

 一瞬、沈黙。


「……うるせえ」

 それだけだった。


 だが、その反応で十分だった。


「……で」

 ユノが少しだけ真面目な声になる。


「来るのか?」


 レオの動きが止まる。


 ほんのわずかな沈黙。


「……」

 視線が揺れる。


 街の外。

 門の向こう。


 そして、工房の方を見る。


「……いや」

 小さく首を振る。


「今はまだ、いい」


 その言葉は、はっきりしていた。


「……そっか」

 ユノもそれ以上は言わない。


「でも」

 レオが続ける。


「そのうち、行くかもしれねえ」


 その言葉に、少しだけ笑う。


「待ってる」

 ユノが言う。


 レナも、小さくうなずいた。


「うん」


 レオは少しだけ驚いた顔をして、それから笑った。


「……勝手に行くからな」


「それでいい」


 短い会話。

 それだけで、十分だった。


 ユノとレナは門の外へ歩き出す。


 背後に、街の気配。

 前に、まだ見ぬ道。


 少し進んだところで、ユノは振り返る。


 レオは、まだそこに立っていた。


 こちらを見ている。


 何も言わない。


 だが、その目には――

 確かな想いがあった。


 ユノは小さく手を上げる。


 レオも、同じように返した。


 それで十分だった。


 再び前を向く。


 次の旅が、始まる。


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