レオ
その日の朝。
タブリスのギルドは、いつもより少し静かだった。
まだ人もまばらで、椅子に座っているのは数人程度。
その中に、レオの姿があった。
腕を組み、落ち着かない様子で座っている。
視線は何度も入口へ向く。
「……落ち着きねえな」
低い声が、横からかかる。
顔を上げる。
そこに立っていたのは、昨日ユノがすれ違ったあの男だった。
「……あんたか」
レオが軽く息を吐く。
「なんだ、その顔は」
男は鼻で笑う。
「別に」
レオは視線を逸らす。
男はそのまま、向かいの椅子に腰を下ろした。
「剣、打ったか?」
唐突な一言。
レオは一瞬だけ言葉に詰まる。
「……まだだ」
短く答える。
「親方が許してくれねえ」
男はしばらく何も言わない。
ただ、じっとレオを見ている。
「……なんでお前が、あんなのについていくのか分からねえ」
ぽつりと呟く。
その言葉には、少しだけ苛立ちが混ざっていた。
「腕なら、もっといい環境もあるだろう」
「名前も、評価も、すぐ手に入る」
「なのに」
視線が鋭くなる。
「なんで、あんなとこにいる」
レオは、少しだけ黙った。
視線を落とす。
それから、ゆっくりと顔を上げた。
「……俺が納得できるからっすよ」
短い言葉。
だが、はっきりしていた。
「……」
男は何も言わない。
「他のやつがどう思おうが関係ねえ」
レオは続ける。
「俺が、あの人の下でやりたいって思ってる」
それだけだった。
しばらくの沈黙。
やがて、男は小さく息を吐いた。
「……変わったやつだな」
立ち上がる。
「まあいい」
背を向けながら、言う。
「そのまま腐るなよ」
「……腐りませんよ」
レオが答える。
男は振り返らない。
そのままギルドの奥へと消えていった。
レオは一人、椅子に座ったまま。
小さく息を吐く。
「……うるせえっての」
そして、もう一度入口を見る。
その視線の先には――
まだ来ていない、仲間の姿があった。




