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始まりの村と小さな竜  作者:


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18/32

手にしたもの

工房の中に、静かな余韻が残っていた。

 打ち終えたあとの熱気と、まだ消えきらない鉄の匂い。

 その中心に、一本の剣があった。


「……これが」

 ユノが近づく。

 作業台の上に置かれたそれは、決して派手ではなかった。

 装飾も少ない。

 形も、どこにでもあるような片手剣。


 だが――

 違和感があった。


 無駄がない。

 線が整いすぎている。

 まるで、最初からそうあるべき形だったかのように。


「持ってみろ」

 レオが言う。


 ユノはゆっくりと手を伸ばし、剣を握る。


「……軽い」

 思わず声が出る。


 見た目よりも、ずっと軽い。だが、頼りない軽さじゃない。

 手に吸い付くような感覚。


 軽く振る。

 空気を切る音が、すっと通る。


「……振りやすい」

「だろ?」

 レオが少しだけ得意げに笑う。


「変に重くしても意味ねえからな。今のお前ならこれくらいがちょうどいい」


 ユノはもう一度、剣を見る。


 特別な素材ではない。

 昨日、自分たちで取ってきた鉱石。


 だが


「……同じ材料でも、ここまで違うのか」

 自然とそう呟いていた。


「まあな」

 レオが肩をすくめる。


「同じもんでも、打つやつで変わる」


 その言葉には、少しだけ重みがあった。


 レナも覗き込む。

「すごく綺麗……」


 レオは少しだけ視線を逸らした。

「まあ……悪くはねえだろ」


 その横で、親方が腕を組んでいる。


 何も言わない。


 だが、その視線は剣に向いていた。


 否定はしない。褒めもしない。


 それでも

 レオには、それで十分だった。


「レナの方は……」

 レオが小さく呟く。


 一瞬だけ視線が動く。

 だが、すぐに戻す。


「……また今度な」

 何でもないように言う。


「うん?」

 レナが首をかしげる。


「いや、なんでもねえ」


 それ以上は何も言わなかった。


 ユノは剣を腰に収める。

 重さが、自然に体に馴染む。


「……いい武器だ」

 素直に言う。


「……そうか」

 レオは短く返した。だが、その顔にははっきりとした満足があった。


 工房を出る。

 外の光が、少し眩しい。


「……なんか、変な感じだな」

 ユノが言う。


「何が?」


「ちゃんと“冒険者っぽくなった”気がする」


 レナが少しだけ笑う。

「うん、ちょっとね」


 歩き出す。

 街の中へ戻る。


 武器があるだけで、見える景色が少し変わる。


 ふと、前から歩いてくる男とすれ違う。


 その瞬間。

 視線が止まった。


「……」


 男が振り返る。


 鋭い目。そして、ユノの腰の剣に向けられる視線。


「その剣」

 低い声で言う。


「誰が打った」


 一瞬、空気が張り詰める。


 ユノは少しだけ間を置いて、答えた。


「……友達だよ」


 男はしばらく黙ったまま、剣を見る。


 やがて、小さく息を吐いた。


「……そうか」


 それだけ言って、背を向ける。


 それ以上、何も聞いてこなかった。


「……今の」

 レナが小さく言う。


「……ただの人じゃないな」

 ユノも同じことを感じていた。


 ただの通りすがりじゃない。


 あの視線。

 あの一言。


 何かを知っている人間だった。


 タブリスの街の中で。

 少しずつ、世界が広がり始めていた。

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