打つ者
工房の中は、変わらず静かだった。
だが、空気は違っていた。
レオが、炉の前に立つ。いつもの軽い雰囲気はない。
顔つきが、別人のように引き締まっていた。
「……始める」
小さく呟く。それを合図にするように、動き出した。
炉に火を入れる。
炎がゆらりと揺れ、少しずつ強くなる。
赤から、橙へ。
熱気が、一気に空間を満たしていく。
金属を手に取る。迷いがない。
無駄な動きもない。
「……」
ユノは言葉を失っていた。
火に入れる。
しばらくして取り出す。色を見て、すぐに判断する。
槌を握る。
――カン。
最初の一打。
それだけで、空気が変わった。
――カン、カン。
音が、一定のリズムで続く。
力任せではない。狙っている。
形を作っている。
さっきまでのレオとは、まるで違う。
無駄がない。
「……すごい」
レナが、思わず呟く。
ユノも同じだった。
目が離せない。
熱した金属を、何度も打つ。
角度を変え、位置を変え。
その一つ一つが、意味を持っているように見えた。
汗が流れるが、拭わない。
意識は完全に、目の前の金属に向いている。
時間の感覚が、薄れていく。
どれくらい経ったのか分からない。
ただ、音だけが続く。
カン、カン、カン。
単調なはずの音が、不思議と心地よく響く。
レナも、ユノも、動かなかった。
ただ、その場で見ている。
口を開くことすら、ためらわれた。
レオの動きが、わずかに変わる。
仕上げに入っているのが分かる。
最後の一打。
――カン。
音が止まる。
静寂。
レオが、ゆっくりと息を吐いた。
そのまま、道具を置く。
「……できた」
小さく呟く。
その声で、時間が戻ってきた。
「……今の」
レナがようやく口を開く。
「……すごかった」
ユノも言葉を探すが、うまく出てこない。
「……あいつ、あんな顔するんだな」
ぽつりと呟く。
さっきまでのレオとは、まるで違った。
まるで
別の人間のようだった。
ふと、奥を見る。
親方が、そこにいた。
腕を組み、無言で見ている。
その表情は、変わらない。厳しいまま。
だが
ほんのわずか。
口元が、緩んでいた。
誰にも見せないような、小さな変化。
何も言わない。
それが、すべてだった。
レオが振り返る。
「……どうだ」
いつもの顔に戻っている。
少しだけ照れくさそうな笑み。
「……すげえな」
ユノが素直に言う。
「ほんとに」
レナも続く。
レオは少しだけ視線を逸らした。
「まあ……こんなもんだ」
だが、その声には少しだけ自信が混ざっていた。
炉の火が、静かに揺れる。
その中で。
一つの武器が、確かに形になっていた。




