待っていた理由
タブリスの門が見えたとき、ユノは小さく息を吐いた。
「……戻ってきたな」
「うん……」
レナも少しだけ疲れた声で答える。洞窟からの帰り道は、行きよりも長く感じた。
体の疲れもあるが、それ以上に戦ったという実感が、ずっと残っていた。
門をくぐる。街の音が一気に戻ってくる。
人の声、馬車の音、呼び込み。
それが、妙に安心できた。
「……まずはギルドだな」
「うん」
冒険者ギルドの扉を押す。中のざわめきはいつも通り。
だが――
「……あ」
レナが小さく声を出す。
奥の方で、見覚えのある顔がこちらを見ていた。
「おせえよ!」
レオが立ち上がる。明らかに待っていた顔だった。
「……なんでいるんだよ」
「なんでって……」
一瞬言葉に詰まる。そして、少しだけ目を逸らす。
「……気になったからに決まってんだろ」
その言葉に、ユノは少しだけ笑った。
「そっかよ」
「で、どうだった」
レオが身を乗り出す。
「……倒した」
ユノが答える。
一瞬の沈黙。それから。
「マジかよ……」
レオの目が大きくなる。
「ロックワームだぞ?」
「知ってる」
「……やるじゃねえか」
小さく笑う。その顔には、安心と少しの興奮が混ざっていた。
「お前らならやれると思ってたけどな」
照れくさそうに言う。
「ほんとかよ」
「ほんとだって」
軽く言い合いながら、受付へ向かう。
「クエストの報告を」
ユノが言う。
「はい、確認します」
簡単なやり取りのあと、報酬が渡される。前よりも少し重い袋。
「……増えてるな」
「うん」
レナが嬉しそうにうなずく。
ギルドを出る。外の空気が、少しだけ違って感じた。
「……で」
レオが切り出す。
「材料は?」
「ある程度は取ってきた」
袋を軽く叩く。
「よし」
レオの顔が、少しだけ引き締まる。
「じゃあ、行こうぜ」
「どこに?」
「工房だよ」
迷いはなかった。
街の奥へ進む。前に来た道。
だが、今回は少しだけ違う。
「……師匠、どう言うかな」
レオが小さく呟く。
「分からない」
ユノが即答する。
「でも」
少しだけ間を置く。
「材料はある」
それだけで、十分だった。
工房の前に立つ。あのときと同じ扉。
同じ静けさ。
「……行くぞ」
レオが小さく言う。さっきまでの軽い雰囲気はない。
扉を開ける。
中は変わらない。熱気と鉄の匂い。
そして――
槌の音。
男は、変わらずそこにいた。
「……戻ったか」
短い一言。だが、手は止まらない。
「……材料、持ってきた」
レオが言う。少しだけ声が固い。
男の動きが、ほんの一瞬だけ止まる。
「……ほう」
ゆっくりと顔を上げる。
その視線が、三人を順に見る。最後に、袋へ。
「置け」
短い言葉。
レオがゆっくりと袋を置く。
中身を確認する。しばらく、無言。
そして。
「……悪くねえ」
ぽつりと呟く。
レオの目がわずかに開く。
「……いいか」
男が言う。
「一回だけだ」
その言葉で、空気が変わった。
「……やらせてもらう」
レオが、はっきりと言う。
男は何も言わない。
ただ、再び槌を手に取った。
それが答えだった。




