硬きもの
「――下がれ!」
ユノの声と同時に、ロックワームが突っ込んできた。
巨体に似合わない速さ。空気を裂く音とともに、牙が迫る。
「っ!」
横に飛ぶ。さっきまでいた場所に、岩が砕ける音が響いた。
「速い……!」
レナが息を呑む。洞窟の中で、巨体がうねる。
逃げ場は多くない。
「……頭だ!」
ユノが叫ぶ。
「体は硬い、効かない!」
踏み込んで棒を振る。横から叩きつける。
――ガンッ。
「……くそっ」
手応えがない。岩を叩いたような感触。
ロックワームが体を振る。
その尾が、横から迫る。
「ユノ!」
「分かってる!」
とっさに腕で受ける。衝撃が走る。
体が弾かれる。
「っ……!」
息が詰まる。だが、立てないほどじゃない。
「大丈夫!?」
「……まだいける!」
距離を取る。呼吸を整える。
「レナ、止められるか!」
「やってみる!」
レナが前に出る。手を伸ばす。集中する。
風が、わずかに動く。
「……いけ!」
小さな風が、ロックワームの顔に当たる。
ほんの一瞬。動きが、止まる。
「今だ!」
踏み込む。
狙うのは目。柔らかそうな場所。
振り下ろす。
――当たる。
さっきとは違う手応え。
「効いてる!」
ロックワームが大きく暴れる。洞窟の壁に体がぶつかり、石が崩れる。
「下がれ!」
距離を取る。だが、ロックワームはすぐに体勢を戻す。
「……まだ足りない」
ユノが歯を食いしばる。
そのとき。
「キュ」
肩の上で、小さな声がした。
「……?」
ラグナルが口を開く。
次の瞬間。
小さな炎が、吐き出された。
「……!」
炎は弱い。だが、確かにロックワームの顔に当たる。
じゅ、と音がした。
ロックワームが大きく身を引く。
「今だ!」
ユノが叫ぶ。
踏み込む。
さっきより深く。同じ場所を狙う。
全力で振り下ろす。
鈍い音。
そして――
ロックワームの動きが、大きく乱れた。
「もう一回!」
レナが叫ぶ。
そのとき。
ロックワームが反撃に出る。口を大きく開き、一直線に突っ込んでくる。
「――!」
避けきれない。
その瞬間。
足元で、ウールがふわりと揺れた。
ロックワームの動きが、わずかに逸れる。
「……!」
牙が、ほんの少し外れる。
その一瞬。ユノは体をひねる。
そして――
最後の一撃を叩き込んだ。
――ゴンッ。
重い音。
ロックワームの体が、大きく揺れる。
そして、そのまま崩れ落ちた。
「……はぁ……」
その場に立ったまま、息を吐く。体が重い。
「……終わった?」
「……たぶん」
しばらく待つ。
動かない。
静寂。
「……やったな」
ユノが小さく言う。
「うん……!」
レナが笑う。
モチがぴょんと戻ってくる。
ウールは何事もなかったようにそこにいる。
ラグナルは、小さく息を吐いた。
「……火、出たな」
ラグナルを見る。
ほんの小さな炎。
でも、それは確かな変化だった。
「……魔法も、効いた」
レナが自分の手を見る。
まだ弱い。
でも――
確かに止めた。
「……みんなで、倒したな」
ユノが呟く。
洞窟の中で。
初めての“ちゃんとした勝利”が、そこにあった。




