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始まりの村と小さな竜  作者:


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13/32

出発!

翌朝。


 タブリスの門の前に、ユノとレナは並んで立っていた。


 昨日と同じ場所。だが、今日は違う。


「……行くか」


「うん」


 短いやり取り。それだけで十分だった。


 門をくぐる。背後に残る街の喧騒。


 前に広がる、静かな道。踏み出した一歩が、少しだけ重い。


 しばらく歩く。


 道は整備されているが、人の気配は徐々に減っていく。


 聞こえるのは、風と足音だけ。


「……静かだね」


「ああ」


 昨日までの街が、少し遠く感じる。


 足元ではウールが、相変わらずふわふわと揺れている。


 レナの腕の中では、モチが落ち着かない様子で周囲を見ていた。


 そして、肩の上ではラグナルが静かに前を見ている。


「ロックワーム、だっけ」


 レナが呟く。


「ああ。洞窟にいるらしい」


「硬いんだよね」


「物理が効きにくいって書いてあった」


 ギルドで見た説明を思い出す。


 遅いが、頑丈。噛みつかれれば、大怪我。


「……ちょっと怖いね」


「まあな」


 ユノは正直に答える。怖くないと言えば嘘になる。


 でも


「だから準備したんだろ」


「うん」


 レナが小さくうなずく。


 昼を過ぎる頃には、周囲の景色も変わっていた。


 草原から、少しずつ岩の多い地形へ。遠くには低い山が見える。


「……あの辺か」


「たぶんね」


 太陽が傾き始める。


「今日はこの辺で止まるか」


「うん、無理はよくないね」


 少し開けた場所を見つけ、荷物を下ろす。


 初めての野宿。少しだけ、緊張する。


 枯れ枝を集める。石を並べて、小さな場所を作る。


「こんな感じでいいのかな」


「たぶん」


 火打ち石を使う。


 何度か失敗して――


 ようやく、小さな火がついた。


「……ついた」


「ほんとだ」


 火が揺れる。小さな炎。


 でも、それだけで周囲の空気が変わる。


 干し肉とパンを取り出す。火に少しだけかざす。


 香ばしい匂いが広がる。


「……うまそう」


「昨日より美味しそうに見えるね」


 軽く笑う。


 一口食べる。硬い。でも、温かい。


「……悪くないな」


「うん」


 静かな中での食事。


 街とは違う味がした。


 モチがレナの腕から降りる。周囲をぴょこぴょこと動き回る。


「モチ、あんまり遠く行かないで」


 呼ぶと、すぐに戻ってくる。その様子に、少しだけ安心する。


 ラグナルは火の近くでじっとしている。


 炎を見つめるように。


「……お前、火好きなのか」


 小さく呟く。


 ラグナルは、何も答えない。


 ウールは少し離れた場所で、静かに揺れていた。


 何をしているのか分からない。


 でも、なぜか気になる。


「……ねえ」


 レナが小さく声を出す。


「どうした」


「魔法、ちょっと試していい?」


「今?」


「うん……さっきから、なんかできそうな感じがして」


 ユノは少しだけ考えてからうなずく。


「無理はするなよ」


「うん」


 レナが手を前に出す。少しだけ目を閉じる。


 風が、わずかに揺れた。


「……」


 集中している。


しばらくして。


 ふわり、と。


 小さな風が生まれた。


「……!」


 火が揺れる。ほんのわずかだが、確かに変化した。


「できた……?」


 レナが目を開ける。その表情には、驚きと嬉しさが混ざっていた。



「……すごいじゃねえか」


 ユノが少しだけ笑う。


「ほんとに、できた」


 レナも笑う。


 ほんの小さな魔法。


 でも、それは確かな一歩だった。


 火が揺れる。夜が、ゆっくりと深くなる。


 遠くで、何かの鳴き声がした。


 静かな中で、それがやけに大きく聞こえる。


「……明日だな」


「うん」


 洞窟。ロックワーム。


 まだ見ぬ敵。まだ知らない戦い。


 準備はできている。


 火の明かりの中で。


 ユノたちは静かに、次の日に備えた。

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