旅の準備
タブリスの通りは、昼を迎えてさらに賑わっていた。
朝とは違い、人の流れが濃い。呼び込みの声も、さっきよりずっと大きい。
「安いよ安いよ!」
「新鮮な肉だ、見ていけ!」
「保存食ならこっちだ!」
声が飛び交う中を、ユノとレナは並んで歩く。
「……すごい人だな」
「朝より増えてるね」
自然と距離を近くする。
少し離れると、すぐに人の波に飲まれそうだった。
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「まずは何買う?」
「食料だな」
ユノが周囲を見回す。
「日持ちするやつ」
「じゃあ、あそこ」
レナが指差す先には、干し肉やパンを並べている店があった。
「いらっしゃい!」
店主が元気よく声をかけてくる。
「どれくらい必要だ?」
「二、三日分くらい」
「ならこれだな」
差し出されたのは、少し硬そうな干し肉と、平たいパン。
「保存は効くが、水はちゃんと持てよ」
「分かりました」
袋に詰めてもらい、代金を払う。
手の中の硬貨が減る。
「……意外とかかるな」
「うん。でも必要だし」
レナが袋を受け取る。
次に向かうのは、薬屋だった。
少し奥まった場所にある、小さな店。
「回復薬、あるか?」
「あるよ」
店の奥から、瓶をいくつか持ってくる。
「軽傷ならこれで十分だ」
透明な液体が入った小瓶。
「……高いな」
「命と比べりゃ安いもんだ」
店主があっさりと言う。
ユノは少し考えてから、うなずいた。
「二つください」
店を出る。
袋の中が少し重くなる。
「……本当に行くんだなって感じする」
レナがぽつりと呟く。
「ああ」
ユノも同じことを思っていた。
通りを歩く。
ふと、足を止める。前方に、少しだけ変わった光景があった。
大きな愛獣が、荷物を運んでいる。
その背には布がかけられ、その上に箱が積まれていた。
主人らしき男が、横で指示を出している。
「右だ、右!」
愛獣は静かに従い、方向を変える。
「……すごいね」
「ちゃんと役割があるんだな」
自分たちの愛獣を見る。
ラグナルは肩の上で静かにしている。
ウールは足元で、いつも通りふわふわと揺れている。
モチはバッグの中で寝ている。
「……あいつらも、ああなるのかな」
「どうだろう」
レナが少し笑う。
「でも、ちょっと楽しみ」
「……だな」
歩きながら、水を売っている店を見つける。
革袋に水を詰めてもらう。
「これで最後か」
「たぶんね」
ひと通り揃えると、少しだけ安心感が出てくる。
同時に、緊張も。
「……大丈夫かな」
レナが小さく言う。
「何が?」
「ちゃんと、やれるかなって」
少しだけ不安そうな顔。
ユノは少しだけ考える。そして、肩をすくめた。
「分からない」
「え?」
「でも、やるしかないだろ」
それだけだった。レナは一瞬きょとんとして、それから笑った。
「……そうだね」
歩き出す。
街の喧騒が、少し遠くなる。
準備は整った。食料、回復薬、水。
完璧じゃないとも思う。でも、今できることはやった。
「明日、出るか」
「うん」
タブリスの空の下で。
二人の最初の遠出が、静かに近づいていた。




