ぐるりと一周終了
――東方地区
町をぐるりと回り、東方地区へ戻ってきた。
ディランとミシャは身の回りの物を買い揃える前に、ギルドへ立ち寄る。
それはミシャたっての願いだったからだ。
彼女は修理に必要な費用を賄うために、ギルドで依頼を請け負うことにしたようだ。
ディランとしては費用に協力してもよかったが、さすがにそれは差し出がましいかと思い、口には出さなかった。
しかし、何か困ったことがあれば、彼はミシャに惜しみない助力をするつもりだ。
再びミシャをギルドの長・アーマッドに引き合わせる。
周りの冒険者たちは幼い姿のミシャを見て一様に驚いたが、ディランの連れと知り、指を差して笑うようなことはしなかった。
だが、内心では、ギルドの仕事が務まるのかという思いは存在していた。
それはアーマッドも同じだ。
「お嬢ちゃんがギルドに登録ねぇ。それは犬の散歩や道端の掃除なんかじゃないんだろ?」
「いえ、収入が得られるのならば、連邦の倫理と正義。そして、この町の法を犯さない限り、如何なる仕事も請け負うつもりです」
「ほぉ。どっかの誰かと違い、殊勝な心掛けだ」
そう言いながら、ディランにわかりやすく視線を送る。
「おいおい、あからさまにこっち見んなよ……一応、言っとくが、ミシャの戦闘能力はそこらの冒険者よりも上だとはっきり言えるぞ。ただ……」
「ただ、なんだ?」
「一流の冒険者に必要な能力があるかどうかはわからねぇ。ギルドの仕事ってのはただ強いだけじゃ駄目だろ」
「まぁな。それじゃ、簡単な仕事から初めて、問題なければ、町ん中で観光客相手にスリを行っている馬鹿な集団あたりでも捕まえてもらおうかね」
「了解です。マスターアーマッド」
「はは、マスターは余計だ」
「了解、アーマッド」
「ミシャっ。さんをつけろ、さんを」
ディランが敬称をつけるように促す。
それを受けて、ミシャは名前を言い直した。
「了解です。アーマッドさん」
「はっはっは、よろしくな。ミシャ嬢ちゃん」
二人はアーマッドの優しくも少し乾いた笑いに送り出され、ギルドを後にした。
その後、ディランとミシャは身の回りの道具を買い揃え、日もとっぷりとくれた頃、宿屋『ヒスイカズラ』へ戻った。
「うへぇ~、疲れた」
宿に着くなり、ディランは大量の荷物を床に置く。
そこへマイヤがやってきた。
「こらこら、入口に荷物を置くんじゃない。隅に置きな」
「へいへい、さーせんね」
マイヤに促され、ディランとミシャは店の隅っこに荷物をどかどかと置いていく。
その量にマイヤは呆れた声を漏らした。
「随分買い込んだね。いったい何だい?」
「着替えとかだよ」
「着替え?」
マイヤは荷物へ首を振る。
そこからは巨大でふよふよしたスライムの人形が飛び出している。人形はそれだけに留まらず、たくさんの可愛らしいぬいぐるみたちが袋からはみ出ていた。
「何、あの人形は?」
「ミシャのだよ。女の子には必要じゃないのか?」
マイヤはミシャへ顔を向ける。
「ミシャ。必要なのかい?」
「わかりませんが、孤児院の子どもたちはぬいぐるみが大切なものだと言っていました」
「孤児院ねぇ。妙なところに行ったね。それじゃ、ディラン。ぬいぐるみの他に、あの妙に可愛らしい服やアクセサリーは?」
「あれも女の子に必要だろ。お洒落とかするだろうし」
「お洒落ねぇ」
マイヤは一つの袋を手に持ち、中身を覗き込む。
「いくらお洒落に必要ったって、櫛は数本でいいだろ。なんで十も二十もあるんだい?」
「ほら、デザイン違いや機能性? とにかく、年頃の女の子ってのは細かなところで気に掛けるもんだろ?」
「はぁ~」
頭を抱えながらマイヤはため息を吐く。
「それじゃあ、あんたの買い物は?」
「俺の? 俺のはそこに」
くいっと顎先を動かす。
そこにあったのは縦に長いバゲットが数本納まる程度の紙袋が一つ。
「これだけかい?」
「俺はとりあえず、下着さえあればいいからな」
「はぁ~、なにから言えばいいのか……」
「何だよ? 何か問題でもあんのか?」
「問題がありすぎて何も言えないよ。ただ、ディランがミシャに甘いことはわかった」
「甘いか? 必要なものだけを購入しただけだぞっ。むしろ、厳しすぎるだろ」
「そうかい。もういい、わかったから。荷物を部屋に運んできな。食事は?」
「いる。肉。ミシャは?」
「私は軽めのもので。できれば、食後に甘いものを」
「わかったよ。席と料理を用意しておくから、荷物を置いてきな」
二人は荷物を四階の部屋に運び、再び一階へ戻ってくる。
そして、マイヤが用意してくれた席に座り、食事を終える。
その後、今日購入した荷物の後片付けは明日に回して、風呂に入り、就寝についた。




