中央に聳え立つ役場
二人は北方地区から南へ向かい、町の中央へとやってきた。
「おお~、でけぇ。ミズガルズの城なんて目じゃないな」
ディランは町の中央に聳え立つ、巨大な建物を見上げる。
それは顎先を真上に向けても頂上が霞んでみる巨大な建物。
様式は円柱状で、どこまでも天に延び、途中からは剣で切ったように斜めの線が走り、先端は湾曲した鉤爪のようなデザインとなっていた。
壁は全面ガラス張りで空や町の風景をよく映す。
町を行き交う人々の話では、この建物はセフォレアムタワーと呼ばれる町役場だそうだ。
この町を預かる町長の山田を中心に、評議会の面々が政治を行っているらしい。
ミシャは早速シャラノ鏡面体を浮かべて建物を調査している。
「直径八十八メートル。高さは三百三十三メートル。鉄筋コンクリート製の建物ですね」
「何でもいいけどよ。ガラスが割れたら、下にいる連中に危なくないか?」
「あれは強化ガラスです。非常に分厚く割れにくく、仮に割れても、砂粒のように細かく割れるようになっています。それに……」
「どうした?」
「建物全体はフォースシールドで覆われています。中々強固なものです。かなりの衝撃を与えなければ、建物に傷をつけることすら叶わないでしょう」
「ふぉーす……よくわからんが、魔法の結界みたいなものか?」
「そうですね」
「ほ~、ただの町にしてはとんでもない建物だな。高さといい、厳重さといい」
ディランは腕を組んで、天を目指す塔のような建物を見上げている。
その隣ではミシャがシャラノをじっと睨みつけていた。
(建物の様式は古いものですが、このフォースシールドの周波数は連邦のものと一致。さらに、この建物の頂点には……)
ミシャは大きく空を見上げる。
その様子が気になり、ディランが尋ねた。
「どうした?」
「この町役場の頂上からエネルギー波が発信されています」
「エネルギー波?」
「これは町の動力源でしょう。町に点在する街灯や各家庭で使用する電気エネルギーを建物の頂点にあるアンテナから飛ばしているようです。見てください、あちらの建物を」
ミシャが町役場から少し離れた料亭を指差す。
その指の先には料亭の屋根があり、さらには屋根から飛び出した金属の棒が見えた。
「屋根に設置されたアンテナから電気を供給しているようです。しかし、このような方法でエネルギーを供給すれば人体に影響があるものですが……」
シャラノを一睨みして、言葉を続ける。
「なるほど。通信電波にエネルギーを圧縮し暗号として届けているのですか。受信アンテナは暗号を解読し、そこで初めてエネルギーへと還元される。これは秘密通信の応用ですね。ですが、どうしてこのような面倒な方法で?」
何か思うことがあるのか、ミシャはシャラノを覗き込みながら首を捻っている。
ディランにはその意味も、先ほど話した内容の意味すらもわからない。
「何を言っているのか、さっぱり何だが……とにかく、夜、町が明るいのはこのでっかい建物から出てるエネルギーのおかげで、屋根の棒きれがそれを受け取っているわけだな」
「はい」
「凄い技術だね。それじゃ、その技術がどんなものか、町役場に入ってみるか」
「それは控えましょう」
「ん、どうして?」
ミシャは壮麗な建物を見上げる。
(この町を作ったのはナシェヤードの乗員。となると、おそらく町の支配階級に座るのはその末裔のはず。連邦の技術を知る者たち……その彼らが私の敵となるのか味方となるのか判断ができない以上、不用意に近づくべきではないでしょう)
無言でミシャは建物を見続ける。
その隣では眉を顰めながら、ディランがミシャを見つめていた。
それに気づいたミシャがディランへ話しかける。
「もし、興味があるのでしたら、お兄ちゃんだけでも」
「いや、いいや。それよりも、あっちこっち寄り道したおかげでそろそろ日が暮れる。東方地区に戻って、今後必要な物の買い出しをしてから『ヒスイカズラ』に戻ろう」
「了解です、お兄ちゃん」
ディランとミシャは建物から離れていく。
そんな二人の様子を建物の遥か上階から見下ろす者がいた。
その者の名は町長山田。
彼はディランを瞳に宿す。
「まさか、守護機甲兵を破壊できる者がいようとは……いや、そこまでは良かった。ナシェヤードの調査は我らの悲願であった。だが……」
視線を動かし、ミシャを見つめた。
「戦闘人形。データベースで知るものよりも幼いが、それでも我らでは届き得ぬ力を持っていよう。その人形に現在、ナシェヤードの全権が委譲されている」
山田は窓から離れ、部屋を見回す。
そこは巨大な円卓が置かれている会議室。
「はぁ~、評議会のお歴々が黙ってはいまい。厄介なことになりそうだ。頻発する地震も含めてな……」




