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黄昏の兄妹  作者: 雪野湯


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町巡り・東方から南方

――混交都市・まほろば

 

 この町は『空から降り立った魔術士』が作り上げたという町。

 大きく円を描く高い城壁に囲まれた、外敵の侵入を拒む絶対防壁の町。


 町の内部もその円に沿うように道が整備されてあった。

 まずは二重円。

 外円と内円と二つの円が町をぐるりと一周する。

 

 その円を結ぶ道として、東西南北を分かつ巨大なバツ印の形をした道が交差する。

 さらに、二つの円とバツを描く道からは細かな道が飛び出ており、空から見下ろすとさながら蜘蛛の巣のように複雑であった。


 しかし、とても広い円の道とバツの道を歩けば、まず道に迷うことはない。

 道は全て舗装されており、足への負担も軽く、他の町にはない平らさを誇り、馬車の揺れも少なく車輪を痛めることもない。



 また、この『まほろば』という町は魔術士が作り上げたと謡うだけあり、他の町とは比べ、非常に珍しいものがそこかしこに存在していた。

 その一端をディランとミシャと共に見て回ろう。


 


 まずは東方地区。

 ここは宿屋『ヒスイカズラ』のある場所。

 主に商いを営む者たちが集う地区である。

 冒険者に仕事を発注するギルドもここに存在している。


 東方地区は広き道も狭き道も店がひしめき合い、その店に並ぶ商品を求めて人々もまたひしめき合う場所。

 多くの種族が入り交じり、世界の全ての人々がここに集まっているのではないかと錯覚を覚える場所でもあった。


 店に並ぶ商品は日用雑貨から始まり、旅の土産、宝石貴金属類、専門家が必要とする理解不能の道具類など、見ているだけで目に娯楽を味合わせる。


 

 この東方地区から円周上の道を南方向へ歩けば南方地区。

 ここは賑やかな東方地区とは打って変わって、とても落ち着いた住宅街が立ち並ぶ場所。

 だが、落ち着いたと言っても、閑静な住宅街とは程遠く、子どもたちの元気な遊び声が響く場所。

 子どもたちは町の景観を支える噴水の傍で水遊びをしている。

 冷たい水と子どもたちの笑い声は夏の暑さを忘れさせてくれる。


 女たちはそんな子どもたちを見守りつつ、井戸端会議に花咲かせ、稼ぎに出た男たちの帰りを待つ。


 女たちや子どもたちの中には二輪の乗り物に乗って移動する者がいた。

 ディランは自分がいた西大陸トゥーレのミズガルズ皇国にはない乗り物に興味を惹かれる。



「ありゃ、なんだ?」

 この問いにミシャが答える。

「自転車ですね。足元にあるペダルというものを使い、人力でチェーンを回し、後部車輪に動力を伝え駆動する乗り物です」

「ほぉ~、便利そうな乗り物だ。あの主婦っぽい人が乗ってる前に籠があるのはいいな」

「そうですね。荷物を乗せるには最適な場所です。お兄ちゃんの指摘通り、とても便利な乗り物ですが、自転車を乗りこなすまでには練習が必要となります」

「そうなのか? 見てる分はそんなに難しそうに、あっ」


 近くを通りかかった自転車に乗る少年がこけてしまった。

「これは大変ですね」

 すぐにミシャが少年に駆け寄る。

「大丈夫ですか?」

「ううん、いたい、ひざがいたい」


 少年は派手に膝を擦りむいたようで、そこから血が滲み出ていた。

「怪我ですね。少々お待ちください」

 


 ミシャはシャラノを浮かべ、少年の傷口を観察する。

 そして、ハンコのような小さな筒状の金属を空中より取り出す。

 それを少年の傷に向けると、筒からは淡い緑の光が降り注いだ。

 すると、たちまちのうちに傷は塞がり、傷一つない綺麗な膝を取り戻した。



「これで大丈夫ですよ」

「うん、ありがとう。お姉ちゃん。お姉ちゃんは癒しの法術使い様なの?」

「いえ、違いますが……そうですね、似たようなものかと」

「そうなんだ。ありがとう、法術使いのお姉ちゃん!」


 少年は元気にお礼を述べると、自転車に跨り、ふらふらとどこかへ行ってしまった。

 その様子をディランは遠くから眺め、柔らかな笑みを浮かべる。


(ふふ、優しい奴だな)

 彼はミシャの元へ向かおうとした。

 しかし、ミシャは突然、あらぬ方向へ走って行く。

 それをディランが目で追うと、彼女は荷物をたくさん手にしたおばあさんに話しかけていた。


「あの、大丈夫ですか? よろしければ、お手伝いしますが?」

「これはすまないねぇ。家はこの道を真っ直ぐ行ったすぐ角だから、そこまでお願いできるかい?」

 ミシャはちらりとディランへ視線を投げる。

 ディランは仕方がないといった感じで軽く頭を掻いて、こくりと頷きを返した。


 ミシャとディランはおばあさんの荷物を持ってあげる。

 それが終えると、ミシャが親御さんとはぐれた女の子を見つけて、一緒に探す。

 その後は、足を痛めたおじいさんの代わりに店の看板を取り付けたり、子どもたちのケンカを仲裁したりなどを行っていった。


 

 ようやく、一段落終え、ミシャはディランに頭を下げる。

「申し訳ありません。時間を取らせてしまい」

「いいっていいって、これくらい。ミシャは困っている人がいると見過ごせない性質たちなんだな」

「いえ、戦闘人形として人間の役に立つことを喜びとしているからだと思います」



 ミシャは感情を籠めず、真っ直ぐとディランを見つめ続ける。

 そこには思いやりという暖かな思いはない……。

 そんな彼女の態度に、ディランの心に寂しさが通り抜けた。

 

 だから、彼は問いたくなった。

 目の前にいる少女が、誰かに与えられた役割をこなしているだけだと思いたくなくて……。

「みんな、ミシャにお礼を言ってくれただろ。どう、感じた?」

「それは……」


 ミシャの脳裏に少年や少女、おばさんにおじいさんの顔が浮かぶ。

 彼らは皆、笑顔でミシャにお礼を述べていた。

 その笑顔たちが、ミシャの心に眠る感情を刺激する。


「よく、わかりませんが……とても、心地良いと感じています。これは一体なんでしょうか?」

「そっか……うん。たぶん、それは、嬉しいって思いじゃないかな?」

「嬉しいですか? なるほど、とても良い感情ですね」


 ミシャは右手でそっと心を抱いた。

 一見、無機質な少女であるが、その心には確かな感情が存在する。

 そのことが嬉しくて、ディランは笑顔を零す。


「ふふふ。さ、町の探索を再開しようか?」

「はい、お兄ちゃん」


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