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黄昏の兄妹  作者: 雪野湯


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風呂へ

 ディランとミシャは部屋に入り、ざっと辺りを見回した。

 部屋はとても広く、二人では持て余してしまうほど。

 壁にはお高そうな絵画が飾られ、町を一望できる大きな窓があった。

 窓の外にはテラスがあり、そこには白い小さなテーブルと椅子。

 

 窓には光を良く通すレースのカーテンと、太陽光を遮るための厚手のカーテンが二重に備えられてある。


 視線を入ってすぐ右にずらす。

 そこには本棚と机。様相は簡素な書斎といったところ。

 顔を正面に向ける。


 二つの小窓と、その窓を挟むように絢爛な家具が備え付けられてある。

 天井は高く、開放感があり、円盤状の何かが張り付いてた。

 そこから灯かりが部屋全体に広がっている。


 床には複雑な模様を表したワインレッドの絨毯。

 それはとても値が張りそうで、靴で踏むには申し訳なさを感じる。

 その他にも高級感溢れる花瓶などの装飾品が部屋を着飾っていた。


 

 ディランは天井にある見たこともない照明器具に驚くが、しかし、ナシェヤードでもっと驚く照明器具を目にしている。

 そのため、さほどの大きな驚きはなかった……だが、テラスへと繋がる大窓のすぐ隣にデンっと鎮座するベッドに、彼は驚きに近い呆れ声を漏らした。


「ベッド、一つしかねぇじゃねぇか……」


 どうやら、この部屋は一人部屋のようだ。

 彼は頭を抱えつつ、ベッドに視線を向ける。

 ベッドはかなり大きく、大人三人が横になっても、十分に余裕のあるもの。


「たぶん、手違いなんだろうが……面倒だからいいか。ベッドもデカいしな」

 と言って、腰から剣を外し近くの壁に立てかけ、手荷物のズタ袋を部屋の隅に放り投げてから隣にいたミシャへ視線を降ろした。

 ミシャはディランの視線に気づかず、部屋の左にある扉へ顔を向けている。

 扉はガラス戸で、向こう側が見えづらいすりガラスだ



「あれが浴室ではないでしょうか?」

「そうみたいだな。早速だけど風呂に入るか?」

「そうですね。お兄ちゃんに蛇口の扱い方の説明をしなければなりませんし」

「はは、そうだな。そんなに難しいのか?」

「いえ、そのようなことはないと思います」

「そうか? 俺にもわかるくらいに簡単操作だと良いけどな」


 そう言って、ディランは浴室へ向かう。

 ミシャはというと、クローゼットへ向かい、中を覗き込んでいた。


「お兄ちゃん、何点か着替えが置いてあるようです」

「お、そいつはいいねぇ。サイズは?」

「お兄ちゃんの服は問題ありませんが、私に合うものはないようです」

「それは残念だな」

「ですが、着れないわけではありませんので」

「そっか。じゃあ、今日はその服を借りて、明日にでも着替えを買いに行こう。俺もミシャも長い滞在になりそうだしな」

「了解です、お兄ちゃん」

「じゃ、とりあえず着替えは何とかなるようだし、風呂と行きますか」




――風呂


 浴室の扉を開き、中へ入ると大人二人が余裕で着替えが行える脱衣場。

 そこにあった脱衣籠にはバスタオルと数枚のフェイスタオルが置いてあった。


 ディランは服を脱いで、脱衣籠へ放り込む。

 彼の隣ではミシャも服を脱いでいた。

 

 ミシャはスカートを少し横にずらして、ファスナーを降ろしている。

 その動作をディランが不思議そうに見ている。

 それに気づいたミシャは開いたファスナーをディランに見せながら説明を加えた。


「両方に歯があり、その間の金具を動かして、開け閉めするのです」

「ほぉ~、面白いなぁ。紐で締めるよりも便利そうだ」

「はい、紐で結ぶという手間を省くために生まれた道具ですので。ですが、本来ならばこの服は変位服ですので、このような動作もなく服の着脱が可能なのです。しかしながら、ここはナシェヤードと違い、システムが不完全ですのでこういった形を取っています」

「うん、相変わらず何を言っているのかさっぱりわからん」



 ディランは軽く首を横に振って、残っていた服を全て脱ぎ終えた。

 ミシャもまた衣服を全て綺麗に畳み脱衣籠に納め、フェイスタオルを手に取って、それを胸に置き、ディランを見つめる。

 彼はミシャの美しくも華奢な体に視線を送って、ため息をついた。


「はぁ、もっと食えよ。いくら可愛くても肉付きが良くないとモテないぞ」

「はい?」

 

 言葉の意味が理解できず、ミシャはちょこんと首を斜めに傾けた。

 ディランはその態度を気にする様子もなく、まじまじとミシャの身体を観察する。

 凹凸なく、とても細い手足。

 透き通る白い肌と切ない銀の髪色とが相まって、とても弱々しく見えてしまう。


「にしても、戦闘人形って言われる割には見た目は頼りないな」

「たしかに成体でないため、戦闘力は30%ほど落ちていますが、それでも十分戦闘に耐えられるだけの力は有しています」

「本当かよ? ちょっと、パンチしてみ?」

 

 ディランは手の平を向ける。

 ミシャはコクリと頷き、彼の手の平に拳を打った。


「では」

「おっと」


 ディランの手は大きく弾け、衝撃が手の平から腕全体に広がる。

「ほぉほぉ、やるねぇ。確かにそこらの連中じゃ相手にならない力だな。驚いた」

「それは私もです。大幅に手加減したとはいえ、私の拳を受けて、その程度で済むとは」

「あはは、手加減かっ。しかも、大幅ときたもんだ。参ったなぁ」


 彼はいたずらな妹へ向ける兄のような目を見せて、ミシャの頭を撫でた。

 撫でられたミシャは特に反応を見せず、黙ってディランを見つめ続ける。

 それに彼はちょっと寂し気な笑顔を見せて、彼女の頭をポンっと軽く叩いてから、風呂へと続く扉に体を向けた。



「それじゃ、風呂に行こうか」

「はい、お兄ちゃん」

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