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黄昏の兄妹  作者: 雪野湯


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18/40

お菓子!?

 マイヤは客に呼ばれ席を離れ、ディランとミシャは料理に舌鼓を打つ。

 しばらくすると、手の空いたマイヤが戻ってきた。

 その手にはトレイがあり、上には何かが乗っている。



「お、食事もそろそろ終えるようだね。よかったら食後のデザートはどうだい? もちろん、これはサービスだよ」

「お、タダか。なら、断る理由はないな」

「ふふ、現金だねぇ。はい、西にはないお菓子だよ」


 そう言って、マイヤはお皿に乗る二つの奇妙なお菓子を置いた。

 そのお菓子の形状はパンケーキ。

 だが、何かを挟み込むように二段重ねになっている。


 またもや飛び出てきた見知らぬ料理にディランが前のめりになると、ミシャがそのお菓子の名を答えてきた。


「なんだ、こりゃ? 中に何か挟まれているようだが?」

「これはどら焼きですね。パンケーキ風味の生地二枚に小豆のあんこを挟んだお菓子です」

「あずき?」

「豆です」

「はぁ~、豆かぁ。って、豆っ? これ、お菓子だよな!?」


 

 ディランは急に驚きの声を上げた。

 それにミシャはキョトンとした表情を向けて、テーブルの傍に立つマイヤはトレイで口元を隠しながら、肩を小刻みに揺らしている。


「ふふふ、西の人だから絶対ビックリすると思ってた」

「そりゃな。つまり、豆に砂糖をぶちこんだんだろ? 言葉は悪いが、正気か?」

「西だと、豆は主食扱いだからねぇ。そうなるよねぇ」

「ああ、そうだよ。豆に砂糖って……食えるのか?」

「もちろん。だけど……」


 マイヤはちらりとミシャを見た。

「醤油の時といい、ミシャは随分と詳しいねぇ」

「データベースに記載がありましたので」

「でーたべーす?」


 いくつものはてなマークを浮かべるマイヤを置いて、ミシャはシャラノ鏡面体を浮かべる。

「ナシェヤードの名簿にこれらの文化を有する人材がいたようです。船体やしきの維持が難しくなり、この町に移住したと推測されます」

「なしぇ?」



 さらに、はてなマークが増えたところで、ディランが簡単にミシャのことを説明した。


「ほら、西の森に魔術士の屋敷があるだろ。ミシャはその屋敷にいた人工生命体ホムンクルスなんだよ」

「あの屋敷のっ!? だったら知っていて当然だねっ。この『まほろば』を作ったのはその魔術士たちだから」


 ミシャはシャラノ鏡面体から視線をマイヤに向けた。

 その様子は少し驚いているような感じする。


「そうなのですか?」

「ああ、そうだよ。それはわからないのかい?」

「はい、残念ながら。失礼ですが、町を興したのはいつごろでしょうか?」

「二百五十年前くらいだったかねぇ」

「二百五十年前……」

 ミシャは鏡面体を鏡を見つめる。



(……ナシェヤードの放棄時期が二百五十一年前。理由は連邦との連絡が不可のため。だからといって、原住民と接触を図り、町まで作るなんて……これは憲章違反では?)


 ミシャはシャラノを使い憲章を呼び起こそうとするが、かなりの部分が破損しており、正確な条文を知ることができない。

 ただ、この行為がやってはいけない行為、ということだけをなんとなく感じることができるだけ。

 彼女は心の中で、憲章について考えに耽る。


(私が接触を図っているのは、ナシェヤードの修繕と連邦との送話を開くことが最優先任務であるから……乗員もそうだった? だからといって、町を造るなんてありえない……)

「ふぅ、これは修繕と連邦との連絡方法と同時に、何が起こったのかを調べることも必要ですね」

 明らかに悩まし気な態度を取る彼女に、ディランが話しかけてきた。



「なんか、厄介事か?」

「いえ、大したことはありません。今のところは」

「つまり、厄介になる可能性があるってことか。ま、そのことは今は忘れて……食べてみるか」


 ディランは豆に砂糖を混ぜ込んである餡子に躊躇した様子を見せる。 

 そんな彼をおいて、ミシャはどら焼きをカプリと噛んだ。


「もぐもぐ……っ!? 大変美味しいですっ。マイヤさん、これは素晴らしいです!」

「そうかい。いや~、そんな風に言ってくれると嬉しいねぇ」

「甘味というのは麻薬だと言った人物がいました、なるほど道理。ですが、ただ甘いだけではこの味は表現できません。生地の味わいと餡の甘さが絶妙でこの中毒にも似た美味しさを生み出せるのでしょう!」



 これまでずっと、感情の起伏なく声を産んでいたミシャだが、どら焼きを口にした途端、興奮気味に捲し立てている。

 マイヤははむはむとどら焼きを味わうミシャに笑顔を送る。

「ふふふ。たしか、ミシャは今日初めて料理を食べたんだよね?」

「はい」

「となると、あんたはどら焼きが好きというよりも、甘いものが好みなのかもねぇ」

「かもしれません。この舌先から伝わる甘味には、自分を忘れてしまう危険な味わいがあります」

「この『まほろば』にはいろんな国の甘いお菓子があるから、機会があったら紹介してあげるよ」

「ありがとうございます。とても楽しみです」

「ふふ、どういたしまして……それよりも、ディラン?」

 


 マイヤがじろりとディランを睨みつける。

 ディランはどら焼き片手に固まっていた。


「いや、豆に砂糖だぞ。ちょっとなぁ~」

「いいからさっさと食べな。美味しいかどうかはそれからだよ」

「わかってるよ。それじゃ~」

 恐る恐るどら焼きをぱくり。

 マイヤとミシャはディランを見つめる。


「どうだい?」

「どうですか、お兄ちゃん?」

「うん……美味しいよ。でも」

「でも、なんだい?」

「やっぱり、豆に砂糖をぶち込んでいると思うと、胃のところがもやもやして……納得できねぇ」


 ディランは胃の辺りを擦る。

 その様子を見たミシャが声を上げようとしたが、マイヤの声がそれを塗りつぶした。

「あの、お兄ちゃん。よろしければ、私が」


「あんたねぇ。美味しいなら素直に美味しいでいいだろっ。まったく、作り手の気分を害する食べ方してっ」

「それ、驚かそうとしてどら焼きを出した人間の言うセリフかよ」

「それは、まぁ、そうだけど……仕方ない、口に合わないなら無理しなくてもいいよ」


「でしたら、私が」


「いや、食べるよ。美味いことは美味いからな。それに食いもんを残すのは嫌いなんだ」

「おや、またなんで?」

「貧しい農村の出でな。食べ物のありがたさはわかっているつもりだ」

 

 そう彼は口にして、どら焼きをバクバクと食べていった。

「うん、豆と思わなきゃ美味いな。それに元々甘いものは好きな方だし。ミシャと同じで」

 と言って、彼はミシャを顔を向けた。

 しかし、そこにあったのは……。


「はい、そうですね……」

 これまでにないくらい淡白なミシャの表情だった。


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