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黄昏の兄妹  作者: 雪野湯


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種族の確執

「二人は兄弟には見えないが、どんな関係なんだい?」

「あ~、一言では難しいなぁ」

「マスターとは条件付きの主従関係です」

「えっ?」

 ミシャの言葉にマイヤは顔をしかめて、その顔のままディランを見つめてきた。

 彼は慌てて言い訳を口にする。



「違うからなっ。マイヤ、あんたが考えているような関係じゃねぇ。ったく、ややこしい表現しやがって」

 ディランは歯をぎりぎりこすりながらミシャを睨みつけた。

 だが、その視線はきついものではない。

 ミシャもまた、視線に怯えることなく、軽く首を傾げるだけ。

 そこからマイヤは二人の関係が決して悪いものではないと汲み取った。



「なんだかわかんないけど、複雑な関係みたいだね。聞かないでおくよ。それで、注文は?」

「何がいいかな? ここでしか食べられない肉料理なんかを。お前もそれでいいか?」

 尋ねられたミシャはコクリと頷く。

 すると、ディランは何かを思い出したように彼女へ問いかけた。


「そういやお前、食事はとれるんだろうな?」

「問題ありません。食物の摂取によるエネルギー供給は可能です。味覚も存在します」


 この二人の奇妙な会話に、一度は尋ねないと決めたマイヤも口を挟まずにいられなかった。

 彼女は視線を左右に振りながら尋ね、それにディランが答える。

「今のは何だい? 食事ができるできないとか味覚があるとかないとか?」

「この子は人工生命体ホムンクルスなんだよ。だから……」

「ほ、ほむん、なに?」

「魔術士や錬金術士なんかが生み出した生命体のこと」


 

 そうディランが説明すると、ミシャが言葉を繋げてきた。

「私は確かに生み出された生命体でありますが、正確にはホムンクルスという存在ではありません。私には素となる媒体があり、それを基にクローン技術とナノテクノロジーを融合し、さらには物質の変換と転置、そこに加え、遺伝子操作によって、」

「はい、ややこしくなるからそこまでだ」

「了解です、マスター」


 ディランは数えるのも馬鹿らしくなるくらいの同じやり取りに肩を竦め、マイヤに顔を向けた。

「とにかく、人の手によって作られた人間みたいなもんだよ」

「よくわからないけど、すごいもんなんだろうねぇ。見た目は普通の女の子だけど」

「たしかにな。この技術には俺もびっくりだ。それよりもそろそろお薦めを聞きたいんだが?」

「ああ、悪かったね。たしか、ここでしか食べられない肉料理だったね。すぐに用意するから、待ってな」



 マイヤはウインクをして厨房へと向かっていった。


 テーブル席に残る二人は、これからについて簡単な話を交わす。

「今日はここに泊まるつもりだが、構わねぇか?」

「マスターの御随意に」

「明日からは魔術士の屋敷……ナシェヤードだっけ? その修繕のための材料集めをやるんだろ?」

「その予定です。ですが、マスターに何かご予定があれば、そちらを優先しても構いません。修繕は最上位任務ではありますが、最優先というわけではないので」

「そう? ま、こっちも何か予定があるわけじゃねぇが……あ、忘れてた」

 


 ディランの脳裏にアイアンゴーレム退治の情景が浮かぶ。

 そこから本来の目的を忘れていたことにため息を漏らした。

「はぁ、ゴーレム退治の自慢をして名前を轟かせようとしていたのに、お前のことですっかり忘れてたよ」

「それは申し訳ございません」

「いや、責めてるつもりはねぇんだが……今の物言いだとそう感じてしまうか。すまん」

「いえ、そんな」

「はは、互いに頭を下げ合うのはよそう。食事がまずくなる」


 彼がそう口にした矢先に、店端から怒鳴り声が轟いてきた。

 二人はそちらへ顔を向ける。



「この卑怯者がっ。エルフというのはお前のような卑劣な連中の集まりばかりだ!」

「ふん、蛮勇という愚かな行為を誇りとする痴れ者のドワーフがほざくな!」


 エルフと呼ばれた長身で耳の尖がった美しい男と、ドワーフと呼ばれた背が低く筋肉質で顔を髭で覆われた無骨そうな男が言い争っている。

 その喧嘩を目にしたディランは「ったく、飯がまずくなるな」と言葉を漏らし席を立とうとした。

 

 だが、彼の出る幕もなく厨房から熊のような親父が出てきて、二人を店外へと摘まみだしていった。

 おそらく、その親父はマイヤの父親である、スティプトだろう。



 ディランは浮いた腰を戻し、ミシャへ話しかける。

「どうやら、この町にも種族の争いってのはあるようだ」

「そのようですね」


「すまないねぇ、騒がしくして。エルフとドワーフは戦争中だから」

 トレイに料理を乗せたマイヤが声を挟み込んできた。

 彼女の言葉にディランが問い返す。


「戦争中?」

「ここからさらに東に進むとエルフの国とドワーフの国があってね。二つの国の間にある湖の領有権を争って戦争を繰り返しているのさ」

「ドワーフとエルフの国。ここにあったのか」

「どういうことですか、マスター?」

「西にもドワーフとエルフがいるが、どちらも小さな集落程度。どこかに国があると聞いていたが、まさか東大陸とはな。しかも、鉱山の民と森の民が湖の領有権とはなんとも」



 ディランは呆れ交じりの声を出し、それに応えるようにマイヤは料理をテーブルに置きながら悲し気な声を漏らす。

「その湖なんだけどさ、実はいうと一番悲惨なのは人魚たちなんだよ」

「人魚?」

「湖は人魚たちものだったんだけど、その湖は海に繋がっていて交易にもってこいの場所。だから、ドワーフとエルフがぶん捕っちまった」

「はぁ、どこの世界も欲塗れってことか」

「悲しい話だけどね。さて、その話はここまでにしとこうかね。せっかくの食事が冷めちまう」

「だなっ」

「さぁ、『ヒスイカズラ』ご自慢の山賊焼きを召し上がれ!」

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