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黄昏の兄妹  作者: 雪野湯


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戦闘人形とは

 アーマッドの紹介を受けて、宿屋『ヒスイカズラ』へ向かう。

 そこへ向かう通りは大きいが、その通りを埋め尽くすように人と出店が立ち並ぶ。

 多くの人々がぶつかり合わぬように気をつけて歩く中で、ディランとミシャは流れるように軽やかに足を進ませていた。

  


 ディランは隣を歩くミシャの足運びを目にして、僅かな驚きと質問を重ねる。

「戦闘人形って言ってたが……なるほど、相当な使い手だな」

「それはマスターもでは?」

 ミシャは無表情でディランを見上げた。

 彼はそれに笑顔で応える。


「ふふ、お互い、相手の身のこなしで実力が図れるレベルってことか。だけどなぁ、なんで子どもなんだ? 戦闘を行うなら、大人の方がいいだろ?」

「それは私が未成熟の状態で起動したからです」

「未成熟?」

「ナシェヤードが旅に出た際、私はまだ生まれていませんでした。様々な実験と並行して私は誕生し、その後、本来ならば成体の状態で起動するはずでした。ですが、屋敷内のエネルギーレベルが低下しており、私の維持で限界だったようです」

「旅?」



 ディランは屋敷と旅という単語が結び付かず眉を折る。

 それに対して、ミシャはディランの疑問を覆い隠すように言葉を重ねた。


「優先される研究である、顕在匪砲レゾンレインの研究が開始されてからの時間を、『研究の旅』と研究員は呼称していましたので」

「研究の旅ね。ふん、洒落た言い回しを。それじゃ、本当ならお前は大人として誕生するはずだった?」

「そうなります」

「そっかぁ……」


 ディランは隣を歩く、小さな少女を瞳に入れる。

 感情は希薄だが、とても可愛らしい女の子。

 表情に色がないところが、絶妙にミステリアスな雰囲気を生み出している。

 

 視線を顔から胸に映す。

 そこには裏表もない平坦な胸。

 彼は残念そうに声を出す。

「できれば、大人のお前と会いたかったよ」

「それは私と性的な関係を持ちたかった、ということですか?」

「あのな、なんでそんな話になるんだよ?」

「マスターは私の胸を見てがっかりした様子でしたので。つまりそれは、マスターの性に関する趣味からみて、私に性的な魅力が欠けているためでは?」

「性とかいうなっ。だけど、否定しにくいな、そうだし。と、とにかく話題変えるぞ」


 

 ディランは周囲に漂い始めた微妙な空気をさっと手で払う。

 そして、話題を戦闘人形に戻した。


「その戦闘人形ってのは、戦闘を行うんだよな?」

「はい」

「どうして、女の姿に? 戦いと言えば基本は男だろ?」

「たしかに様々な種族において、力が勝っているのは雄の方が多いです。ですが、我ら戦闘人形は通常の生命体と異なっております」

「通常? 普通と違う?」


「戦闘人形の肉体は主に強化合成タンパク質とナノマシンによって構成されています。合成タンパク質の材料には、」

「ああ、すまん。聞いた俺が悪かった。理屈はともかく、要は戦闘人形とやらは男も女も力に差がないってわけだな?」

「そういうことです」


「じゃ、男の姿でもいいだろ。正直、女が戦闘で傷だらけになる姿はあまり見たくないぞ」

「それが理由の一つです」

「ん?」

「女性だと、敵が油断することが多い」

「なるほど」

「それに、多くの種族の支配階級には男性が多いため、女性の姿の方が便利なのです。もちろん、相手に合わせて男性の戦闘人形も存在しますが」



 ディランは足を止めて、両手の人差し指をミシャに向けて回転させる。

「それって、もしかして、色仕掛けか?」

「はい」

「じゃあ、お前さんが可愛く作られているのも?」

「それが理由です。もっとも種族により美の定義は難しいですが、一応私は人間タイプ専用です」

「なんか生々しいな~、おい」


「因みに、現在の私でも十分に性行為が可能ですので、マスターの命があれば、」

「やめてくれっ。お前みたいなガキにそんな気なんか起きるかっての。あと十年経って大人になってから言えよ」

「それは現状では不可能です」

「はい、なんで?」

「培養ポットから出た時点で容姿と年齢は固定されてしまいます。これ以上の成長は望めないのです」

「そう、なのか……?」



 ディランはミシャの姿を瞳の中に取り入れる。

 瞳に映るは、戦闘人形と名乗る少女の姿。

 彼女はこの姿のままでこれからを生き続けると言う。

 ディランは声を少し上擦らせる


「それは、俺のせいになるのか……」

「そのようなことは決してありません。全ては任務のためにガクテンソクが判断したことです。それにマスターの訪れなければ、あと三年ほどで私の維持も難しくなり、崩壊していたでしょう」

「崩壊……マジか?」

「事実です。ですので、私が成長できないことなど些細なことです。お気になさらないでください」

「そうは言ってもなぁ」


 

 ディランは後頭部を押さえて、指先で頭皮を掻いた。

 そこから何かを思い出したように声を出す。


「そうだっ。さっき現状ではって言ったよな。て、ことは、条件が揃えば成長ができる?」

「ナシェヤードの修繕が済み、相応の知識を持つ者が居れば可能です。しかし、ナシェヤードが沈黙し二百五十年。技術者もなく、現状では成長の可能性は低いかと」

「そうか……寿命は大丈夫なのか?」

「大丈夫とは?」


「普通の人並みに生きられるかどうかだよ。少なくとも五十年以上くらい?」

「そういう意味ですか。我ら戦闘人形は致命的な破壊がない限り、二百年の連続稼働が可能ですので、ご安心を」

「に、二百年?」

「さらに修繕を重ねる。もしくは記憶のみを新しいボディに移せば、半永久的に稼働が可能とされています」


「それはすごいこって……エルフどころか精霊並みの寿命ってことか」

「現状では新たにボディを得るどころか、修繕も難しいですが」

「そうか。ま、お互い健康に努め、ケガには気をつけよってことだな。さて、いつまでも立ち止まってちゃあ、邪魔になる。宿に向かおう」

「了解です」

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