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黄昏の兄妹  作者: 雪野湯


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ミシャと一緒にまほろばへ

 森の道なき道を進み、『まほろば』へ戻る頃には日はすでに傾き空は赤く染まり始めていた。

 町の街灯は誰の手に頼ることもなく自動的に明かりを灯し、通りを明るく染める。



 ミシャは町の中を歩きながら、周囲を注意深く見ていた。

(かなり多くの種族がいますね。一つの惑星にこれだけ多様な種族が存在するなんて……高濃度のノスターレ粒子の影響で、多様な人種を産んだのでしょうか?)

 きょろきょろ辺りを見回すミシャにディランが声を掛けてくる。


「どうした?」

「いえ、賑やかな町だと思いまして」

「そうだな。俺も今日来たばかりだから詳しくはねぇが、他の町と比べ種族も多彩で、珍しいものがそこら中にある」


 ディランは空に浮かぶ風船や不思議な明かりを灯す街灯を見つめ、演奏家の姿もないのにどこからともなく流れてくる音楽に耳を傾ける。

 ミシャもまたそれらを観察していた。


「服装や町並みからみて、基本となる技術は低水準ながら、一部はその水準を上回っていますね」

「ん? 馬鹿にしてる?」

「いえ、驚いているんです」

「そう? ならいいけど。じゃあ、さっさとギルドに向かうか。そういやギルドにも屋敷と同じ自動で開く扉があったぞ」

「それは楽しみです」



 大勢の人々が波打ち変化を見せる通りをすり抜けて、ギルドへと戻ってきた。

 ディランは扉の前に立ち、足元の床を踏み込む。

「ここにな、体重を乗せると」

 前にあったガラスの扉が自動的に開く。

「な、すごいだろ」

「ええ、そうですね……」


 ミシャはシャラノを浮かべ、床に注目する。

「油圧ですか。面白い。我々の遥か過去の時代に空気圧を利用した自動扉はありましたが、油圧式はありませんでした」

「そりゃ、すごいってこと?」

「ん~、面白い機構ですが、無駄が多いかと」

「……そう。でも、あんまり正直に口にするのはやめた方がいいと思うぞ。この技術に誇りを持っている人もいるだろうし。それにさっきから微妙に棘があるし」

「了解しました。以後、配慮します」

「うん、素直でよろし。では、入ろうか」

「はい」



――


 ギルドに入ると、全裸ではなくちゃんと服を着た冒険者たちが慌ただしく戦いの準備を行っていた。

 しかし、彼らはディランの姿を見て、何故か驚いた様子を見せて道を開けていく。

 彼らの奇妙な態度にミシャはちょこんと首を傾げた。


「周りの方々は一体どうしたのですか? こちらを見て驚いているように見受けられますが? それに戦いの準備まで」

「さぁ……ああ~、脅しが効きすぎたのか? でも、戦いの準備は何だろうな?」

「脅し?」

「ちょっとした誤解があってな。気にすんな。とりあえず、窓口へ行こう」

「了解です」


 言葉に従い、ミシャは彼らから意識を外す。

 そして、ディランと伴い、ギルドの窓口へとやってきた。



「アーマッドのおやっさん、ゴーレム退治してきたぞ~」

 と言って、ドンッとゴーレムの頭を受付台の上に置いた。


 少し離れた場所に居たアーマッドは足早に窓口へとやってくる。

「ディ、ディラン? 無事だったのか?」

「無事?」

「森の方からどえらい音が響いてきたからてっきり……それで役所に許可貰って、冒険者かき集めて屋敷の方へ向かおうとしていたところだったんだよ。許可申請に手間取ってこんな時間になってしまったがな」


「ああ、そうか、そういうことか」

 ディランはギルド内を見回す。

 彼らはディラン救出のために戦いの準備を行っていた。

 それなのに、けろっとした様子でディランは戻ってきた。その姿に驚いていたようだ。



「そっかぁ、すまん。いらん心配をかけたみてぇだな」

 ディランはアーマッドに頭を下げて、ギルドの冒険者たちにも軽く手を上げて、小さく会釈をする。

 その態度を受けて、冒険者は張りつめていた空気を緩め、アーマッドは言葉を返した。

「いや、それはこっちもだ。無事だったんならそれでいい。しかし……」


 アーマッドは受付台に乗せられたゴーレムの頭をじっと見つめる。

「こいつぁ……本当に退治しちまうとはな」

「そりゃあ、それが依頼だったからな? ほれ、報酬くれ。あと、預けた荷物も」

「あ、ああ、信じられねぇが、証拠を見せられたら何も言うことはねぇ。ちょっと待っててくれ」


 アーマッドは報酬を用意するために奥へ引っ込もうとした。 

 その彼を呼び止める。



「あ、そうだ。報酬の八割は口座に。残りは現金だ。ほれ、身分証」

「おう、わかったぜ」


 アーマッドはディランがポケットから取り出した小さな青色の水晶を受け取り、事務机に腰を掛けていた女性職員に声を掛ける。

 すると彼女は、机の引き出しから緑色の水晶を取り出し、それを浮かべて、何かをブツブツと唱え始める。

 その様子が気になったようで、ミシャがディランに尋ねてきた。


「あれは?」

「ん? ありゃ、魔法石の一種だ。あの水晶を使って、お金の管理を行ってんだよ」

「銀行というわけですね。ですが、電子装置の類には見えません。失礼します」


 ミシャは刺々しい真紅の結晶で装飾されたシャラノ鏡面体を空中に生み、女性職員が操作している水晶を調べた。


「……ノスターレ粒子の結晶体? なるほど、粒子の情報を記憶する特性を使い、身分証や口座の管理に利用しているのですね」

「その通り。理屈は聞くなよ。俺にはわからん」

「はい、わかりました。しかし、ノスターレ粒子を結晶に加工できるという事実には驚きを隠せません」


「お前んところではできないのか?」

「我々の理解を超える物質ですので。それを低レベルな技術しか持たない種族が、こうも簡単に利用しているとは驚嘆に値します」

「だから、その見下すような表現はやめろって」

「そのつもりはないのですが?」



 ミシャは首を斜めに傾けて、きょとんとした表情を向けている。

 それに対し、ディランは頭を抱え込むように押さえていた。

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