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黄昏の兄妹  作者: 雪野湯


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創生の粒子

 ディランたちは元来た道を戻り、外へと出た。

 外に出るとすぐに、ミシャは扉のそばにあった壁の一部分を開き、何かを操作している。



「扉は締めて、ロックしておきます」

 彼女が言葉を終えたと同時に、扉は自動的に閉まった。

 そして、ディランに顔を向ける。

「では、行きましょう」

「ん、戸締りは大事だからな。勝手に入った俺が言うのもなんだが……」



 屋敷の出入り口から二人は離れるが、すぐにミシャが足を止めた。

「これは、守護機甲兵!?」

 彼女は言葉を跳ねてアイアンゴーレムに近づき、自分の真横に刺々しい真紅の結晶体で覆われた鏡を産んだ。

 鏡にはディランの知らぬ文字が浮かぶ。

 彼女は視線をちらりちらりと鏡とゴーレムへ向ける。

「破壊されて間もない。この切断面は……まさか、刃物で切りつけられた? 一体、どのようにして?」


 

 ミシャの驚きようを目にして、後ろにいたディランがばつの悪そうな声を上げた。

「あ~、悪い。俺がやっちまった。このゴーレムが暴れまくって危険だったからよ」

「マスターが? それに危険?」

 ミシャは顔をディランに向けて、次にゴーレムが破壊した森へ視線を向けた。

 彼女は鏡を覗き込む。


(守護機甲兵は戦闘レベル1000まで対応の可能。それに低レベルとはいえ次元変換砲エウクレイデスを使用している。マスターにそれほどの力が?)

 鏡を動かし、ディランに向ける。

(戦闘レベル69? 一生命体としては危険レベル。さらに力の変異を加味すると、ここから3倍から5倍程度になるはず。この数値はあり得ない。え?)


 

 鏡は何かを探知したようで、赤い文字で何かの警告を発した。

(これは……創世の粒子ノスターレ? 世界を満たすノスターレ粒子の濃度レベルが2億以上? 一つの銀河系を生成してもお釣りが出るレベル。連邦領域に存在する惑星でもせいぜい濃度2千がやっと。ここは一体?)


 ミシャは表情の色薄くも、そこには小さな変化を見せる。

 その様子が心配になり、ディランは声を掛けた。


「大丈夫か? さっきから眉を顰めたり上げたりして」

「え? ああ、すみません。心配させてしまい」

「いや、大丈夫ならいいが。で、さっきから何やってんだ? いきなり、妙な赤いの浮かべて」

「これはシャラノ鏡面体。様々なものを調査、観測するための道具です。これを使い、周辺を調査していたのですが、ノスターレ粒子濃度があり得ないレベルで驚いていたのです」

「のすたーれ、なに?」

「ノスターレ粒子。説明は、そうですね」



 ミシャはシャラノをディランに向ける。

「マスターの力の根源はノスターレ粒子のようですね。おそらくですが、何か超常的な力を使用できるのでは?」

「超常的なって言われてもなぁ……魔法とか?」

「こちらではそういった呼ばれ方をされているんですね」

「なんだか、奇妙な言い回しだな。つまりあれだ。その何とか粒子ってのは魔力のことか?」


「魔法または超能力。その正体の多くは放射線などの力をエネルギーへ転用し行う。または脳の進化による新たな力の獲得を意味するのですが、ここではノスターレ粒子が魔力という形で脳や肉体に干渉し、魔法を産んでいるようですね。失礼します、マスター」

 鏡をディランに近づけて、その表面に浮かぶ奇妙な文字や数字を見つめた。



「信じられませんね。肉体がノスターレ粒子の圧に耐えられるように進化しています。これならば、相当量の粒子を体内に取り込むことが可能です。だから、通常の生命体ではありえない力が行使できるのでしょうね」

「そ、そう。何、褒められている感じ?」


 照れくさそうに後頭部を掻くディランに見向きもせず、ミシャはゴーレムの残骸に顔を向けた。

(長期連続稼働で故障個所も多い。とはいえ、通常なら生身の存在に破壊できるはずがない。それができたということは、ノスターレ粒子の影響でマスターは相当な力を秘めている?)



 ミシャは顔をディランに戻して尋ねる。

「マスターは次元変換砲エウクレイデス……光の攻撃に耐えたのですか?」

「え? いや、俺の後方で爆発しただけだよ」

「そうですか……自動照準に深刻なダメージを受けているようですしね。それで、マスターが機甲兵を切りつけた?」

「ああ、これでな」


 ディランは腰元の剣をすらりと抜いて、ミシャに見せる。

 すぐに彼女はシャラノを使い、調査を行った。


「アダマンタイン鋼ですか? 確かにこの剣とノスターレ粒子で強化されたマスターならば、性能のダウンした機甲兵の装甲を切るのも可能でしょう」

「何だろうな、今のは微妙に褒められてねぇな。しかし、よく剣の材質がわかったなぁ。その鏡みたいな結晶体のおかげか?」

「はい。貴重金属で剣を造るのは少々もったいない気もしますが。他にもあるのですか?」

「うんまぁ、良い剣ってのはアダマンタインやヒヒイロカネなんかを使ったりするな」

「ヒヒイロカネまで……どうやら惑星ここは資源の宝庫のようで。特にノスターレ粒子の量は」

「結局、そのノスターレ粒子ってのは魔力のことでいいんだよな?」



「はい、ノスターレ粒子こと魔力は非常に有用なエネルギー物質です」

「それは魔法以外にもってことか?」


「はい、様々な情報を宿す謎の粒子とされています。内包するエネルギー量は膨大。また、時間の流れに制限がなく、多くを記憶する特性を有しています」

「多くを記憶するか。たしか魔法石にはそんな特性があったな。だが、時間の流れに制限がないってのは初耳……いや、どっかで聞いたような……?」


 ディランは腕を組んで頭を悩ませる。

 しかし、なにも思い出せず、イライラが募るだけ。

 彼は軽く手を振り、話の続きを促す。


「すまん、続けてくれ」

「では……この粒子の謎を紐解けば、宇宙創世の謎も、それ以前の宇宙についても観測可能と言われていますが、現状では解明できていません」

「宇宙の謎ねぇ。天文には興味ないが、ま、残念だな」


「はい。ですが、純粋なエネルギーとしても非常に有用です。マスターは魔法や肉体の強化に使用していると見受けられますが」

「まぁな。魔法はあんまり得意じゃねぇけど。とはいえ、使えないわけじゃねぇぞ」


「そのマスターが魔力と称するノスターレ粒子のエネルギーを、仮にワープコアのエネルギー源に転用できれば、僅かな時で数十万光年の旅も可能となります」

「わーぷこあ、こうねん?」

「それは、っ」


 

 ミシャの頭に痛みが走る。

 それは連邦憲章違反を伝える痛み。

 しかし、降りた情報は欠片ばかりで曖昧であり、どこまでの何が違反なのかはわからない。

 手探りではあるが、ディランが返してきた疑問を元に、彼にもわかる例えで補うことにした。


「恐ろしく早い船が作れるということです」

「ふ~ん、そういや皇都で飛空艇の実験があったな」

「飛空艇?」

「魔導を、つまり魔力を使った空飛ぶ船。俺もそん時は実験に立ち会ったが……盛大な花火になっちまった」

「それは残念です。ノスターレ粒子を使用したエンジンがどのようなものか拝見したかったのですが」

「魔術士と錬金術士が懲りずに作っているみたいだから、そのうち見る機会もあるんじゃねぇのか?」

「そうですか。その時が楽しみです」


 ミシャは楽しみと言葉に表す。

 しかし、表情に色はなく、淡白なまま。

 その態度にディランは少し寂しげな表情を浮かべた。

(感情がない、か。でも、楽しいという思いはあるわけだ)


 彼は顔を町の方角へ向ける。

(町に行って、色々なことに触れれば、少しは感情の見せ方ってやつが育つかな?)

 優し気な眼差しをミシャへ向ける。

 瞳の中に籠められる感情は、過去に失ってしまった妹への思い。

 その感情に彼は気づき、首を横に振る。

 そして、気持ちを切り替えて声を出した。



「それじゃ、そろそろ町に向かうか?」

「少々お待ちください。魔力について奇妙な変動があるので」

「変動?」


 ミシャは問いに答えを返さず、無言でシャラノの鏡面に浮かぶ数値を見続けている。

(ノスターレ粒子に複数のエネルギー反応? 私たちの知る粒子は一つのエネルギー体。この惑星には未知のノスターレ粒子が存在するということでしょうか?)


 無言で鏡面を睨むミシャへ、ディランは心配そうに声を掛けた。

「おい、大丈夫か?」

「え? はい、問題ありません」

「なら、いいが……もう、町に向かっても大丈夫だな?」

「はい、構いません」

「じゃあ、町へ。っと、その前に」


 ディランはゴーレムの残骸の前に座り込み、ミシャへ顔を向ける。

「この残骸を一部持って帰りたいんだが、いいか?」

「どうしてですか?」

「ギルドからゴーレム退治を依頼されててな。その証拠を持って帰らないといけねぇんだ。だめか?」

「それは……」


 連邦憲章が脳裏をかすめる。

 同時にマスターの望みを叶えなければ、という思いも宿る。

 そこで彼女が出した答えは……。



「そのギルドとやらに見せるだけならば。そのあとで私が回収することになりますが」

「ああ、構わんよ。屋敷に魔術士がいない今、これはお前の財産だからな」

「ありがとうございます」

「いいって。その財産を派手に壊しちまったんだから。お礼なんか言われる立場じゃねぇよ」

「機甲兵は故障し迷惑をかけていたのでしょう。当然の処置です。むしろマスターに怪我がなくてよかったと」

「そう言ってくれるならありがたい。それじゃ、頭を持って帰るかね」


 勝ち割られた頭部の半分を脇に抱える。

「それじゃあ、行こう。まほろばへ」




――

 二人はまほろばへ向かう。

 そんな彼らの後ろ姿を森の木陰から覗き見る者がいた。

 

 その者は、子ども程度の背丈には不似合いなトレンチコートで身を包み、帽子の上部がへこんでいる中折れ帽を深くかぶっている。

 そして、ディランやミシャに気配を一切悟らせぬことのできる存在……。


 彼は野太くも耳へ心地良さを伝える渋みのある声を生む。

「ディランとミシャが出会ったか……さて、どうなるか? 俺たちの孤独を癒せるといいのだがな」

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