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黄昏の兄妹  作者: 雪野湯


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少女の心に芽吹くものは?

 ディランは軽いため息をついて、ミシャの瞳に目を合わせた。

 その瞳からは僅かながら冷たさが消えたような気がしないでもない。

 だが、淡白な表情は相変わらずのままで、ミシャはじっとディランを見つめ続けるだけ。

 沈黙に耐え兼ねて、ディランが問いかけた。



「どうした、子どもっぽく振舞っていいんだぞ?」

「それは難しいかと」

「またそれかよ。なんで?」

「感情は学習により習得していきます。つまり、現在私の感情は空白なのです」

「それは時間が経つ共に、経験に則った感情が芽生えるということか?」

「はい」


「なるほど、時間がかかりそうだ。そうだな、一つだけアドバイスしとく」

「何でしょうか?」

「俺の性格は参考にするな」

「了解です。マスター」

「う~ん、素直に答えられると、ちょっと傷つくな」

「はぁ?」


「んで、これからどうするんだ?」

「科学調査船ナシェヤード型一番艦ナシェヤードの修理が最優先事項です。その後は連邦との通信手段を獲得することです」

「ナシェヤード?」

「この船の名です」

「船? お前もガクテンソクと同じで屋敷を船って言うのか。研究所かもしねぇけどさ。少なくとも船には見えねぇよ」

「いえ、ここは、っ」



――連邦憲章・第四十七項――未開惑星の住人との接触ついて。



 ミシャは突如走った頭痛に顔をしかめながら頭を押さえた。

 それは断片的に脳へインストールされた連邦の規約事項。

(これは……?)



「どうした? 頭でも痛いのか?」

「いえ、大丈夫です。そうですね、私が誤っていました。ここは屋敷です。因みにマスターはここをどのような場所だと?」


「聞いた話だと、二百五十年くらい前に空から舞い降りた魔術士の屋敷だって。正直、眉唾ものだったが、不思議な道具があるし、人工生命体ホムンクルスのお前もいるし、話の通り魔術士の屋敷だったんだろうな。俺はかなり高度な技術を有した魔術士か錬金術士たちの研究所だと感じたが」


「……そのとおりです。ここは様々な研究が行われていた屋敷、ナシェヤードと呼ばれています。研究所を兼ねていますので、あまり不用意に周りのものに触れない方が良いかと思います。ケガをしますから」

「そうか? ま、ほとんど何がなんだかだし、金目のものにも見えねぇから触る気なんてねぇけどな」


 ディランが両手を軽く上げて肩を竦めると、ミシャは小さく会釈を返し、台から降りてそばのパネルに近づいた。

 そして、表面を指先で叩き、何やら操作している。



「座標の特定不可。共同研究を行っていた二番艦クルジェルロは未知のエネルギー波に呑み込まれ轟沈の可能性? ナシェヤードの船体……屋敷の全体に亀裂。システムの断裂。エネルギーコアは動いているようですが、残量はほとんどなく、一度主砲を撃てば沈黙。今はシステム全体を休眠状態にして、エネルギーの消費を抑えないといけませんね」


 ミシャはパネルに置いた指をスッと下へ動かした。

 すると、室内の照明が少し暗くなる。



 その様子にディランは瞳を左右に振った。

「いや、ここにきて驚くことばかりだな。二百五十年前にこれだけの技術を持った魔術士たちがいたとは」

 言葉では驚いたと言うが、彼の態度からそれをあまり感じない。

 ミシャはそんな彼の態度を奇妙にとらえていた。


「あまり珍しい様子ではないようですが?」

「ん? いや、珍しいよ。だけど、皇都の研究所では魔導の研究が盛んで、魔灯まとうって言われる照明器具があるしな。一般的ではないけど」

「皇都? 魔灯?」

「皇都ってのはこの土地からずっと西にある国の都で、俺はその国の出身。名前はミズガルズ。魔灯は魔力を使ったランプ」

「魔力……魔法が盛んな惑星くにというわけですね」

「うん、盛んじゃない国があるのか?」



 この問いに、ミシャは視線を下に向けて首を傾けた。

「すみません。起動の際、不手際があったようで常識的な部分が抜け落ちているようです」

「そうか。なんかエラーエラー言ってたもんな。大丈夫なのか?」

「日常生活を行うには問題はないかと」

「ならいいけど。それでだ、国の話ついでに聞くが、連邦だっけ? それはどこにあるんだ?」


「ここから遠く離れた場所にあります」

「別大陸か?」

「はい」

「たしか、遥か東にはでっかい海が広がっていて、そこに馬鹿でっかい大陸があるっていう伝説があったな。そこから?」

「ええ、そうです」

「そりゃ、すごい。伝説は本当だったってことか。で、その制服はその大陸にある連邦の軍の学校の?」

「はい、その通りです」


 ミシャは淀みなくディランの問いに答え続けるが、もちろんこれらは嘘である。

 だからといって、彼女に後ろめたいものは一つもない。


 何故ならば、彼女の中に眠る連邦憲章こそが最優先に守るべき事柄であり、それがディランに真実を伝えることを禁じているからであった。



 お互いの紹介が終わり、これからのことをディランはミシャに尋ねる。



「それで、お前さんはこれからどうするんだ?」

「屋敷の修繕に努めたいと思っています。もちろん、マスターに何か御用向きがございましたら、その命にも従いますが」

「いや、俺の方は特にないが……今から修理を?」



 ディランは近くにあった、破損した制御パネルに指を向けてくるくると回す。

 それを受けて、ミシャはさらりと部屋全体を見回して、壁のパネルに顔を向けた。

「いえ、修繕に必要な道具が足りません。あまり期待はできませんが、一度周辺の探索に出ようと思っています」

「材料不足ってか。それならいったん町に戻ったらどうだ?」

「町?」


「近くに『まほろば』って町がある。中々の規模で珍しい道具も扱ってそうだし、役に立つ物もあるだろうよ」

「そうですか。情報収集も兼ねて訪れてみましょう。情報感謝いたします」

「いや、別にこの程度。それじゃ、また梯子を登って戻りましょうかね」

「その必要はありません。リフトを動かしますので」


 ミシャは壁そばにあった机に手を置いてパネルを操作するが……。


「故障しているようですね。梯子を使いましょう」

「……ん、だな」

 ディランは肩の力を抜き、眉を折りつつ言葉を返した。

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