忘れていたはずの痛み
「服? わかりました。では、どのような服装がお好みですか?」
「何でもいいよ、好きなの着れば?」
と、ディランは投げやりに言葉を返すが、少女は無言で首を傾けるだけ。
仕方なく、彼は言葉を続けた。
「はぁ、女の子っぽくスカートなんかいいんじゃねぇの?」
「スカート、どのような?」
「いや、それは自分で、」
少女はまたも首を傾ける。
「わかった。なんか、こう可愛い感じの。って言っても、俺にもお子様の服装はわかんねえしなぁ。あのさ、着替えはあるんだろう? まず、それを見せてくれねぇか?」
「わかりました。データベースにある可愛いと思われるスカートが付随した服装を候補に挙げます」
少女が瞳を少し左右に動かした。
すると、三着の服の画像が空中に浮かび上がった。
その様子にディランは驚きを隠せない。
「おお~、すげぇ~、どんな仕組みなんだ?」
「これはホログラムの一種です。分子配列自動的に組み換えスクリーンとし、光の回折を、」
「ああ、ごめん。説明はいいわ。それよりも服だな」
ややこしそうな説明が行われそうなので、ディランは話を先に進めることのしたようだ。
彼は空中に浮かぶ、三着の服を見つめる。
そして、そのうちの一着に注目した。
「これなんかいいんじゃねぇのか? リボンタイがついていて女の子っぽいし」
彼が選んだ服は青を基調とした薄手のベスト。
それは身体に沿うものでもなく、かといってふわりとした様子もなく、機能美に優れたもの。
その青のベストの下には白色のシャツ。
スカートもまた白色だが、先端の裾部分には微妙に異なる二色の青のボーダーが走っている。
膝を隠す程度の長さのスカートは、上着の青いベストによって半分が隠れていた。
さらに青のベストには、紺色の長袖のブレザーが付随していた。
ブレザーの胸元と右肩には、複数のメビウスの輪でかたどった、桜の模様らしきものがある。
首元には黒のリボンタイ。
全体を通して見ると学校の制服のように見える。
少女はディランが指を差した服の画像に顔を向けた。
「連邦の士官学校の制服ですね」
「連邦の士官学校? 軍の学校か?」
「はい。この制服は、第111回制服コンテストで、軍の制服にしては可愛いと表彰されたものです」
「にしてはかよっ。まぁいいや。連邦に軍のこと。それにこれから何をするのかを、色々詳しく聞きたいところだが、まずは着替えてからだな。この服で問題ねぇか?」
「ありません。では、レプレケーション開始」
少女の声が部屋に響くと、服の画像は消えて、同時に光が少女の身体を包む。
光は服を形取り、輝きが消えると少女は服を纏っていた。
見たこともない技術を何度も目にしたディランは、驚きに息を喉奥から漏らす。
「すっごいな、おい。服を作るとは。魔女が似たような魔法を唱えてたけど、それとは違うみたいだし……うん?」
ディランは少女の足を見つめる。
そこには肌の露出はなく、黒のタイツが身に付けられていた。
さらには白色の長ブーツも。
「タイツと靴はさっきの映像にはなかったはずだが?」
「学校指定のものです。変更しますか?」
「いや、いいよそれで」
ディランは視線を少女の足元からゆっくり上に持って行き、腰元で目を止め、すぐに胸元へ向けた。
「一応、聞いとくが、下着もちゃんと着てるんだろうな?」
「いえ、指示がなかったので」
「マジかよ」
「では、どのような下着がお好みで?」
少女はちょこんと首を傾ける。
それにディランはがっくりと肩を落とし、言葉も落とす。
「…………白でいいんじゃねぇの」
――
ようやく、裸の少女へ服を着せ終わり、ディランは本題に入る。
「え~っとだ、まずはなんだ? 自己紹介でもするか。俺はディラン=ローズルだ」
「では、私も改めまして、戦闘人形セメットプラン型ラー001です」
「それ、名前じゃないよな?」
「はい、割り当てられた機体番号ですが」
「名前は?」
「ありません。通常は起動者が名付けをされることが一般的です。よろしければ、マスターから名を戴きたいのですが?」
「俺が?」
「はい」
ディランは少女の全身を目に入れる。
目の前にいるのは、自分より5~6歳程度年下の少女。
その姿に、過去の記憶が疼く。
疼きは意識とは無関係に口を動かした。
「ミシャ……」
「了解しました、ミシャですね」
「え、いや、ちがうっ!」
「どうされました? 何か不都合でも?」
「え?」
少女は無垢な瞳をディランに向けた。
そこには何もないはずなのに、ディランは発しようとしていた言葉を沈めた。
「いや、なんでもない」
「そうですか。では、今後、私はミシャと名乗ります。マスター」
「ああ……」
ディランは頭を押さえながら、返事をした。
彼の胸中には複雑な思いが広がる。
(まったく、割り切っていたつもりでも、やっぱりどこかで後悔が渦巻いているんだな。この子に妹の名前を付けるなんて……)
ディランは幼いころに五つ年下の妹を魔族に殺されている。
それから時を重ね、いまだ仇は討てずとも、傷ついた心から痛みは無くなったはず。
そう、彼は思っていた。
しかし、少女を前にして、ふと、妹の記憶が蘇ってしまったのだ。
(全然妹に似てないし、年も違うってのに、俺って奴は……)
彼は大きく息を吐き洩らす。
その様子を心配してか、ミシャが声を掛けてきた。
「どうされました? ご気分でも悪いのですか、マスター」
「いや、大丈夫だ。それよりも、そのマスターってのやめてくれ」
「では、ディラン様」
「いやいやいや、様よしてくれよ。ディランで構わない」
「それは難しいかと。私とディラン様との間には主従関係が規定されています」
「それを変えることは?」
「再プログラムを行えば可能ですが、現状では不可能です」
「不可能ね……じゃ、マスターでいいよ。様よりかはマシだ」
「わかりました、マスター」
「んじゃ、せめて、その口調は何とかならねぇのか? もっと砕けた感じで。淡白な感じを止めて、年齢相応の子どもっぽい感じとか」
「それは難しいかと」
「またかよ。なんで?」
「私は戦闘人形として、不要な感情を伴っておりません。もし、感情を得るのならば、マスター権限による、感情の開放が必要です」
「マスター権限? 俺のってことだよな? じゃあ、許可する」
「了解です。感情を開放……」
「ふぅ、これでようやく普通に話せるな」




