少女まんがは程々に。
俺の幼なじみは変な子です。
「おはよう!今日もいい朝だね!!」
俺の幼なじみは、頭がおかしい。発想がおかしい。行動がおかしい。
彼女の手には、細身のフランスパンが握られている。むき出しだ。直握りだ。家で食ってから来い。
「パンをくわえて『遅刻遅刻〜』がしたくて」
じゃあ、なぜくわえていない。なぜ握っている。なぜ走ってない。そしてあれは、食パンだろう。
「そうなの!食パンなんてくわえて走るの無理だよね?ちぎれて落ちちゃうもん!!」
いや、だから。そうじゃなくてな?まずくわえてないだろ?握ってるだろ?
その持ち方は、リレーのバトンだろ!
「あれさ、よく考えると変なんだ〜。なんでくわえる必要があるんだろ」
あ、切れ目が入ってジャムはさんである。……でろって出てきてるし、手に付いてる!
「かばん一個しかないなら、持ってない反対の手でパンを持って走るのが普通だよね!で、一口食べて咀嚼しながら走るべきだよね!」
もっしゃもっしゃとパンをかじる姿は、とても女子高生は思えないぞ。お前はどこの野性児だ?
「反対の手に荷物があるならわかるけど。……パンをくわえざるを得ない状況って、背中と両手がふさがるしかないじゃない。そんな大荷物を持っているときに、悠長にパンを食べるかな?」
普通は食わねえよ。だから、あえてお前はそれにしたのか。
「うん、走りやすいし、食べやすい」
……お前のそれはもう、『遅刻遅刻〜』ではない。
そして、そもそも俺たちの出てきた時間は、遅刻する時間帯ではない。
「あとね、『彼女からいい匂いがする、家庭的だなあ。弁当手作り?』とかもしたくて」
今日、お前からすごい臭いがするのはそのせいか!なにをしてきた。
「よく、卵焼きの匂いとかいうけど、あれほぼ無臭よね?」
で、お前は何をしたんだ。お前から祭りの屋台の匂いと中華料理屋の匂いがするが。
「朝、料理して昼まで匂いが残ってるってかなりの強いものしかないのよ」
頷いてないで早く言え。
「醤油とソース、あと生姜とにんにくが食欲をそそり、なおかつ匂いも長く残ったわ」
そこは菓子にしろよ。バニラエッセンスとチョコレートの甘いかおりでいいじゃないか!なぜそうなった!
「あとさ、まんがに差し入れとかあるでしょ。これ食べてみて?」
お前、ホットケーキミックスにブルーベリー入れただろ。レンジ加熱で破裂したブルーベリーとベーキングパウダーが反応して、地球外生命体な物体に仕上がっているじゃないか。
「意外に手作り菓子って喜ばれないのよねえ」
コレは菓子ではない。地球外生命体だ。鮮やかな蛍光青紫が、まったく食欲をそそらない。
「やっぱり、少女まんがみたいにはうまくいかないなあ」
……お前、少女まんがを参考にしてるのか?ケチつけてんのか? ……どっちだよ。
俺の幼なじみは『変』だ。
……でも、そんな彼女を好きな俺が、この世で一番『変』だと思っている。