恋の罠は回避しました
「『恋の罠を仕掛けたい』の前編の後、幼なじみの彼が誠意と根性を見せたらきっとハートフルな恋愛モノになるにちがいない。と頑張ってみたが、どうなんだろうか」バージョンです。
私は翌朝、いつもより一時間早く家を出た。
昨日は、あまり眠れなかった。本当はあいつに会いたくないから、学校にも行きたくはなかった。
「はよ」
玄関を出ると、会いたくなかった幼なじみが、なぜかいた。何でいるのかわからない。会いたくない。なんのつもりなの?
「……」
顔を合わせたくなくて、私は足早に彼の前を通り過ぎるが、あっさりと追い付かれてしまった。
「……話くらい、聞いてくれよ」
「嫌」
私は間髪入れずに言う。顔も見たくないのに、話なんか聞けるわけがない。
「頼むから、聞いてほしい」
通学路をふさがれて、思わず立ち止まってしまう。
「話すことなんて、ない」
顔を見ると泣いてしまいそうで、そっぽを向いた。
「……悪かった、機嫌直せよ」
彼の言葉に、忘れていた怒りが湧いてきた。
機嫌!?まるで私が勝手に怒ったような言い方じゃない。
先程までの悲しさは、胸の奥に追いやられる。
私は、これ以上傷付きたくないのに!
「あんた何しにきたのよっ。
私を苛立たせて、そんなに楽しいの!?
私を更に怒らせるために、わざわざ朝から待ち伏せしてたの!?
もう、いいかげんにして!」
昔から、彼の言動は私を苛立たせることが多い。
今までは、彼が好きだから我慢できていた。
「な……お前な、その言い方はないだろ!」
もう、……我慢しようとも思わなかった。
――だって、我慢しても意味がない。私がつらいだけだもの。
涙を堪えてかれの顔を睨み付ける。
ここが道の真ん中で、通行人が何人かいるけれど、知らない。恥をかくのはあいつの方だ。
「じゃあ、どんな言い方をすればいいのよ。
今まで、あんたは私になんて言ってきたの?
私をどう扱ってきたの?
『本当は好きだった』?
……だったら、何。好きだったら、どんなに酷いことを言っても許されるわけ!?
私は人間なの、心があるの。あんたの言葉を聞いていて、表面上は笑顔でも、心はいつも傷ついて泣いていたわ!
もうこんな思いたくさんよ!」
冷たく言い放つと、私は彼の脇を抜けて走りだした。
逃げて逃げて……、そのまま彼のいない世界に、逃げ込んでしまいたかった。
………………………………
「っ……、待てよッ!!」
好きな子を泣かせてしまった。しかも別れの言葉付きで。
正確には付き合ってはいなかったが、あいつも俺を好きなことは知っていたから、自分の中では既に俺のモノとして扱っていた。
自己嫌悪で、死にそうだった。
その気持ちに比べたら、学校までの全力疾走など苦にもならなかった。
自分が素直じゃないという自覚はあった。だが、俺の言葉や態度に、彼女があんなに傷ついているなんて分からなかった。
あんな傷ついた目を、させたかったわけじゃない。
「……お前を、泣かせたいんじゃない」
追い掛けて追い付いて、捕まえた彼女を強く抱き締めた。
「……俺を見て欲しかっただけなんだ」
周囲はまだ、人通りが少ない。それでも口に出すのは恥ずかしくて、泣きじゃくる彼女にだけ聞こえるように言った。
「……ごめん、俺が全部悪かった。俺は、……お前に嫌われたら生きていけない……。だから、……俺の傍にいてよ、いて欲しいんだ」
「……あんたなんて、だいっ嫌い……」
彼女はそう言っていても、俺の腕の中からは無理に出ようとはしなかった。
「……あのさ、」
「……執行猶予、だから」
この勢いで、昨日の言い訳やらなんやらをしようと口を開いた所で、彼女に言葉を遮られた。
「……しっこう、ゆうよ?」
胸を押されて、二人の間に隙間ができる。彼女は、俺から一歩離れた。
「……私が、もう一度あなたの傍にいたいと思うようになれたら……」
泣いて目が赤いし、顔はぐちゃぐちゃになっていた。
「……ぶさ」
いつものように意地悪な言葉が出そうになり、慌てて口を閉じた。
今、ここで軽口を叩いてしまったら、執行猶予どころか、バッドエンドにまっしぐらだ。
「……何?」
「……執行猶予が終わったら、キスしていいか?」
それくらいのエサがなければ、この十数年の間に培った『素直じゃない性格』を矯正する自信がない。
「もっと、しっかりした言動が身についたら、ね」
そう言って、彼女は目尻の涙のあとを指で拭った。 笑顔とまではいかないが、泣き止んでくれてよかった。
……しかし、なんとなく、要求が高くなったのは気のせいだろうか。
俺は彼女と並んで歩きながら、学校を目指すのだった。
※いつもと違う終わり方を目指してみました。
自分で書いていて、「こいつら、くっつかねえな」と散々書きなおした割に、話は短くてもう反省中です。
これからも精進していきます。拙い作品ですが、読んでくださってありがとうございました。




