Cluster-A3:無謬 Sector-01:久方の陽射し
播種計画の一端として、俺に与えられた任務は二つ。
その一つは、生き残ったヒトを、順次播種船へと送り込むことだった。
避難施設で保護したヒトを冷凍睡眠ポッドに入れ、専用の地下搬送路に乗せて射出する。そうすればシャトル基地へと自動的に到着し、あとは向こうで作業が行われる。
しかし、もしシャトルの打ち上げまでに間に合わなければ、ヒトが取り残されてしまう。時間は有限だ。だから到着したヒトの栄養補給が済めば、睡眠ポッドでしばらく疲れを癒すように勧める。
それは自動化された作業であり、俺の役割はその進行状況の管理と、問題が起きた際の対応だった。
詳細を説明している暇などなかったのだ。
問題を処理するのに、機械の身体はとても役に立った。
そのおかげで、238年前、それは完全に達成された。
それがゆえに、もう一つの任務は不要となった。
なぜならその任務とは、残念ながら定員オーバーとなり、施設へ残らざるを得なくなったヒトを、可能な限り生き残らせることだったからだ。
だが全てをシャトルに送りこめたおかげで、もはや必要のなくなった俺もまた眠ることになったわけだ。
ココロの願いに従って。
……しかし彼女は残ってしまった。
つまりは、不要だったはずの任務は、必要となった。
たった一人を救うための任務。
とても大事な、愛する一人だけを。
「それでソーマ、核融合電池を集めるとして、その候補地の目星は? それから目標量はどれぐらいだ?」
『まずは最終戦争時に稼働が未確認である避難施設が近くにありますので、そこへ。その後いくつかの施設を巡り、そして最終目的地は――』
ソーマの話を聞きながら、脳内に広げた地図――戦争で崩壊するより前のもの――を確認し、だいたいの日数を計算する。
交通機関があるわけもない。地表が瓦礫で埋まっているのならば、乗り物での移動も困難だろう。
だから歩くしかない。
ただし疲れを知らない機械の身体で。便利なものだ。
障害物がなければ、およそ五日。
そんなにうまくいくわけはない。十日と見積もった。
もちろん往復するので、その倍の日程だ。
「了解。バックパックは?」
往復に必要な荷物は、俺自身をメンテナンスするための簡易整備キットぐらいで、それらは俺の身体に埋め込まれている。
ヒトではない俺に、食料や水は不要だ。
『最適なサイズの物を用意してあります』
だからそれは、手に入れる予定の核融合電池と、道中にて見つけたその他有用なものを詰め込むためのものだ。
『それから、これを連れて行ってください』
首筋に埋め込まれた背面カメラが、小さな飛翔物体を捉えた。
『自律型偵察機を改造しました。元のAIを廃し、私自身の部分コピーに置換しています。私はここを離れられませんので』
梟を模したその機械は、止まり木に降り立つように、俺の肩に乗る。
すると脚の部分から接続端子が伸び、俺が肩の差込口を開くと、そこにぴったりと嵌った。
まるで、元よりそこが定位置であるかのように。
『私のことは、アムリタ、とお呼びください。マスター』
その声は俺の脳内に直接届いた。
偵察機は発声装置を持たないようだ。
だから通信は、音波ではなく有線で、だ。
それにしても……。
「ソーマにアムリタとはな。なかなか洒落ているじゃないか」
さあ、出発しよう。
避難施設の出入り口。幅は五メートル、高さは三メートル。かつて大量のヒトが潜り抜けていった、希望へ至るための門。
当たり前だが、それは閉鎖されている。
だが、俺だけのために、ここへ無駄な電力を通すわけにはいかない。
だから俺はその脇にある、床に設けられた非常ハッチへ近付いた。
ハッチの蓋を持ち上げて開き、タラップを降り、中を這いつくばって進み、外側のハッチを押し開ける。
無論、まだ地下だ。
目の前の大きな空間に、昇降装置が鎮座している。
最後の旅客を乗せてきて、そのままとなっていた。
電源は当然入っていない。
そして238年間停止したままのそれは、電源を入れるだけでは動かせない。
もし動かすならば、かなりの整備を必要とする。潤滑油を交換する程度ではおそらく無理だ。
だから俺はそれを無視し、その脇へと向かった。
目立たない位置に非常扉があるのだ。
地下の静謐な環境にあったからだろうか、その扉は軋むことなく案外すんなりと開いた。
その先に、上方へ延々と続く螺旋階段がある。
ここを昇れば、電力も無駄にしない。
金属の階段を、カツンカツンと小さな音を響かせながら進む。
その途中には、踊り場のように備わった隔壁がいくつか。
しかし地下にあったためだろう。備え付けられていた扉は、どれもすんなりと開いた。
進む。ただ進む。
そして、辿り着いた最後のハッチ。地上部との境目だ。
なにかが邪魔しているのだろうか。
今までのように、簡単には開かなかった。
俺は力を籠め、強引にそれを打ち破る。
それは単に、長年の風雨で錆びついていただけだったのだろう。
久しぶりに見た景色は、晴れていた。
摂氏35度。
夏の陽射しが、明暗センサーにより調整されて届いた。
――あつすぎだよ~。
そんな声が聞こえた。
気のせいだ。
それは熱電対から伝わる、ただの数値なのだから――。




