有名人の友達
「んー?ないな〜」
若葉さんはリビングをキョロキョロと探し回っている。
「若葉さん。何を探してるんですか?」
また久保さんが着替える割に、時間がかかっている。部屋に行くのも野暮だから、ここで待つことにする。
「んー?私のメガネだ」
「え、若葉さんってメガネするんですか?」
「いやー。伊達メガネだ。変装用のな」
何から欺く為に変装をするんだろう。
「友達に“メガネをかけると印象変わる”と電話で言ってしまってな。だから、伊達メガネをいくつか配達して送ろうとしたんだが、その前に開けて歩果と品評会をしてたんだが、どこかで無くしてしまってな」
「その友達って、何者なんですか?」
「え?年に一回は家に来る絵優若葉だが?」
「そうなんですね……」
ん?絵優若葉?あのモデルの?確か、この前買った本の作者だよな……奇妙な学生時代を描いたエッセイの「若葉の学校」の?
「え、え?絵優若葉ですか?」
「呼んだか?」
「若葉さんは若葉さんでも、そっちじゃありませんから」
絵優若葉って……若葉さんと同い年なんだ……え、19歳なの?
まだあまり有名ではないけど、ちょくちょくバラエティ番組で見る。
「え、同じ学校なんですか?」
「そうだぞ」
じゃあ、「若葉の学校」に出てきたあの奇妙な友人って……
「一応聞きますけど、若葉さんは芸名を自分の名前にされるのは?」
「許可はあるぞ。手作りの契約書もある。本名が書かれてる」
正直、見たい。
「そうだな。拓は私の胸揉み放題か、絵優若葉の本名、どっちを取る」
「地味に迷う選択をしないでください」
ていうか、絵優若葉って出身、千葉なの?
「それは、絵優若葉の本名ですかね」
「えー……拓はもっと大きい子がタイプなのか?」
「違いますよ」
この人は突拍子もないこと言うな。
「まぁ、とにかく。メガネを探さないとですよね。僕はここ半分を探すので、若葉さんはもう片方をくまなく探してください」
絵優若葉……僕が見つけたら本名教えてくれるかな?
「あの、若葉さん?」
「ん?」
「絵優さんってどんな人なんですか?」
「そうだな。努力家だな」
「他には?」
「私と同じくらいは勉強できるな」
「……ほか」
「はい探せ。誰が隅々まで探せって言ったんだ?」
「あ、すみません……」
ソファの下とかテレビ台の下を見たけど、一向に伊達メガネは見当たらなかった。
「ないですよ若葉さん」
「じゃ、私の部屋を探してみる。探してないから」
「順番逆じゃないですか?」
若葉さんはリビングから出て行って、入れ替わるように久保さんが入ってきた。
「なんかあったの?」
「ああ……若葉さん、お友達にあげる伊達メガネを」
「あー。絵優さんか。お姉ちゃん、私たちの前でも芸名で呼ぶんだよねー。多分、あと1週間くらいでくると思うよ」
「えー。僕も会いたい。有名人を生で見たい」
「それ、絵優さんに失礼じゃない?」
「ファンがいるのは、嬉しくない?」
「それはそう」
*
久保若葉は、伊達メガネの入った箱を持ち上げる。
「あー、面白かった」
森川拓は、ああ言うちょいマイナーなモデルに詳しそうだから。有名人より、ダイヤの原石ってね。
電話を耳に当てる。
「あー、若菜?伊達メガネ届いたぞー。1週間後、来いよ」
『え、買ってくれたの?ありがとー。その日は午前に仕事があるから午後でいい?』
「モデルさんは大忙しだねー」
『ううん。まだ有名人じゃないから。でも、これくらいがいいのかもね』
「そうだな。でも、良かったな。お芝居ができるようになって」
若葉はベッドに転がって、彼女の書いた本を上げる。
「お前は、“黒が似合うモデル”と言われてるな」
『え、なに急に』
「…………いいや。お前が黒い格好をすると、演劇部の来場者は増えたよな」
『そうかな?お芝居に夢中で気づかなかった。あと、黒い服を着てたのは、体のラインを』
「フ。そこが、お前が夢を叶えた理由だな。芝居に夢中になれる。お前の強みは体じゃない。そのコーディネート力と演技力だな」
若葉は一呼吸おいて、笑って言う。
「がんばってね」




