リアルだと 綺麗事だな 蝉時雨
夏の季語に蟬時雨があるって拓くんが言ってた。でも、蟬時雨なんてのは綺麗事だった。
「っるせーなボケナス」
蟬の声が近くで聞こえる。窓にでもくっついてんの?
「おー歩果。朝から乱れてるな」
ぼんやりとした視界。
メガネをかけると、お姉ちゃんが私の部屋で座ってた。
「お姉ちゃん。蟬が窓にでもいんの?窓叩いて追っ払ってよ」
「いや。天井にくっついてるぞ?」
「え?」
速攻でベッドから出てお姉ちゃんのそばに寄る。
「お姉ちゃん追っ払ってよ」
「虫が大丈夫な私でもなぁ……ゴキブリはあまり飛ばないからいいんだが、飛行を主とする虫は得意じゃないんだよなー」
「えー……じゃあどうすんの?」
「よし。待ってろ」
何があるかわからないから、私はお姉ちゃんに着いていく。
お姉ちゃんは自分の部屋だった物置から、虫取り網を取り出した。プラスチック製の。
「これをな……」
1階に降りて、虫取り網の持ち手をライターで炙ると、持ち手が曲がる。
「よし。これで蟬を下に行かせない兵器の完成だな」
部屋に戻って、お姉ちゃんは高速で蝉に虫取り網を被せる。
「……ん?」
この速さでこの揺れ……妙だな
「お姉ちゃん、着けてないの?」
「え?あぁ。暑いからな」
拓くんがこの事実知ったらどうなるんだろ。
ジジジと、蝉が暴れている。
「はいはい」
お姉ちゃんは窓を開けて、蝉を離す。
部屋に静寂が戻った。
「おー。お姉ちゃんありがとう」
「いいぞー。もっと言え」
こういう時、お姉ちゃんは役に立つ。
拓くんは少し虫が苦手だから。
『んー。カエルみたいなもんだよ。最初は嫌だけど、触ると意外とみたいなね』
あの例えはちょっと分からなかったかな。
「あぁ。そうだ歩果」
「なに?」
「二度寝するのか?」
「いや、いいや。蟬で目ぇ覚めた」
「そうか。ホットケーキでも作ってやる」
「……いいや。私が作るよ。蟬のお礼」
「お。蟬も悪いもんじゃないな」




