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夏休みだから

「てなわけで、一泊だけ泊まる森川拓くんでーす」

 久保さんは食卓の席で僕を紹介した。彼女のお母さんもお父さんもいるんだから、めっちゃ気まずい。

「こんばんは。森川拓です」

 緊張しつつ、挨拶をする。

「本日は、ご相伴に預かります」

「礼儀正しい子だね」

 久保さんのお父さんが言う。

「はい。昔から色々雑学の本や辞典を見てまして……」

「知見が深い子だね」

「はい。それしかなくて……勉強のこと以外は二の次にされてて……」

 思わず口を塞ぐ。

 あぶない。ブラックジョーク言うところだった。

 それで、僕は久保さんの友達であると同時に男の子。ある程度は、若葉さん以外には警戒されてそう。

「親父。警戒してる?」

 若葉さんが言う。

「愛娘(まなむすめ)が、ナニされるか分かんないから、警戒してるってか?」

「若葉。そう言うのはやめなさい」

「あぁ、拓。私はヤっても大丈夫だぞ。その方が面白いじゃないか」

「若葉……」

「もうしません」

 良かった。父親が避けられるなんてよくある事だけど。久保家は心配ないか。

 …………父親か。

『拓。友達と遊びに行くなら宿題をしなさい』

『98点か。ケアレスミスがあるじゃないか。……先生はサービスで丸にしてくれた?自分に甘くなるぞ』

 そんな感じの父親だった。

 僕のことをあの人みたいな優秀な人にしたいことはわかっていた。でも、やり方が悪すぎた。

 だから中3の秋に離婚した。

 ママさんが言うには、「その方が拓が安心できる」と。

 確かに、方針を変えても僕からしたら溜まったものじゃない。

「男共。晩御飯ができたぞ。運べ」

 若葉さんは僕も巻き込もうとする。

「お姉ちゃん。拓くんはお客さんだから」

「気にしゃい気にしゃい。バチは当たらんだろ」


 改めて、僕はご相伴に預かることにした。

「拓くん。君の前だと歩果はどんな感じ?」

 久保さんのお母さんが、突然聞いてくる。

 僕は慌ててカレーを飲み込む。

「家でも変わらないと思いますよ。コンタクトをしてるかしてないかくらいじゃないですか?」

「そうかな。もしかして、君が気づいてないところがあったり?」

「……どうですかね」

「私は知ってるぞー」

 若葉さんがおかわりのカレーを注ぎながら言う。

「そうだな。歩果は拓とゲームをする時、たまに」

「お姉ちゃん。早く食べて」

「こわ。へーへー」

 ため息をついて、若葉さんは椅子に座る。

「ま、私の部屋が下だから歩果も気をつけろよ」

「分かってるよ」

「じゃ、全年齢向けの歩果の秘密を言ってやろう」

「歩果は拓との写真をコピーして、紙のアルバムに入れてるぞ」

「……それならいいけど」

 ピリピリした空気は消えた。

「じゃあ、拓は歩果をどんな感じの子だと思ってる?」

 若葉さんの質問に僕は迷う。

「そうですね……」

 皆、好奇な目で僕を見てくる。

「まず、だらしないです」

 失礼なのは承知。でも、ここはありのままを伝えないと。

「授業中に寝る。忘れ物をする。売店に行きたいのに財布を忘れる。深く考えると頭痛がする」

「…………」

「でも、明るくて。僕にはもったいないくらいです。直感的で……いつも僕の隣にいてくれる子です」

 若葉さんは1人で笑い出す。

「付き合った時の挨拶じゃないんだから。それに、なんで下げて上げるんだよ」

「……そうですよね。普通、逆ですよね」

「逆って……私、そう言うの嫌いなんだけど」

「あぁ、ごめん」


 和やかに食事は終了したと思う。

 ところで、ある問題が僕の中で浮上した。

 寝る所……!いや、このリビングで雑魚寝もしていい。客人と言っても、扱いは上じゃなくていい。

「お、拓。どうした。地蔵みたいな顔して」

 若葉さんがニヤニヤしながら聞いてきた。僕の隣に座ってヒソヒソと言う。

「寝るとこだろ。私の部屋でもいいぞ」

「いや、そんなわけには」

「はー?人がご厚意で言ってんだぞ」

「遠慮します。若葉さんの部屋って何があるかわかんないんで」

「チェ。実験台作戦は不発か。歩果」

「え、なに。お姉ちゃん」

「寝るとこどうする」

「あー……決めてなかった。うち、部屋が広いだけで部屋は少ないし……んー」

「歩果。部屋に入れちゃえ」

「えー。まぁ、拓くんなら私の部屋何回も行ったことあるけど」

 そう言った途端に、彼女の両親が僕を見る。

「んー……あ」

 久保さんは何かを思いついたようだ。

「じゃあ拓くん。お風呂上がったら、私の部屋集合ね。私、先入ってくる」

 そう言って久保さんはリビングを出て行った。

 絶対警戒された。たまに久保さんって無神経というか、周りのことを考えないんだよな。


             *


 念の為、スーツケースの中に入れた歯磨きセットで、先に歯磨きをした。

 若葉さんが僕より先に入って、結局1時間空いてお風呂に入った。

「…………」

 ここは、男性用のシャンプーだよね……


 お風呂に上がって、久保さんの部屋に入る。

 彼女はメガネをかけていた。また久しぶりに見た気がする。

「お、拓くん……お風呂早くない?遠慮した?」

「してないよ」

 なんとなく気まずくて、距離ができてしまう。

「拓くん。どうしたの?」

 久保さんは僕を手招きする。

 僕は少しずつ近づく。

「あー、焦れったいなぁ」

 久保さんはグイッと僕の手を引っ張る。

「わ」

 久保さんのベッドの端に、手をついてしまう。

「拓くん。おいで」

 久保さんが自分のベッドの隣をポンポン叩く。

「え、寝るの?」

「まだ」

 変なことはしないから、言われた通りに僕は彼女の隣に転がる。

「見よ」

 漫画動画。ふと、安心感を感じた。

「うん」

 漫画動画を見ていると、久保さんは独り言のように話し始めた。

「私さ、一緒に寝るってこと、やってみたかったんだー」

「ん?」

「お姉ちゃんとは、昔よく寝てたんだけど……でも、男の子と寝る機会なんてなかったから……この動画を見るとそう感じるんだー」

「……うん……僕なんかでいいのかな」

「えー?なにそれー。とにかく、寝落ちもちもちしよ」

 漫画動画の言い回しをそのまま使う久保さん。

「そうだね……」

「一応言っとくね。拓くん、おやすみ〜」

「うん、おやすみ」


              *


 僕たちは違う意味で朝チュンをした。

 隣には、当然のように隣で寝ている久保さん。なんか、一緒に暮らしたらこんな感じなのかな。

 てか、僕の胸に久保さんの腕があるんだけど……胸に圧力があると悪い夢を見るって聞いた。

 でも、悪い夢なんて見なかった。

 ただ、そこに久保さんがいて……なんて言ってたのかは忘れたけど、見た目がすごい変わってて、それでも彼女だと分かった。

 予知夢ならいいな。

 さてと、この手をどけないと……

 ちらっと久保さんを見る。彼女の寝顔があった。

「…………」

 いや、このまま二度寝するのも悪くないか。

 すると久保さんは、胸に置いている腕を首に上らせてきた。

 人差し指を一本立てて進軍を止める。

 危ないなぁこの子。

「はぁ」

 小さく息を吐く。

 起きるか。

 僕たち2人の間には、久保さんのスマホがあった。メッセージが来て、付いたホーム画面には、今の時間が出た。       

 まだ7時だった。

 学校のある僕たちが起きる少し前か。

 待ち受けには、見覚えのある夜桜があった。

「……あー」

 1年くらい前に、彼女から送られてきたんだ。確か、若葉さんに連れてかれたって……

 なんか、懐かしいなぁ。


 それから、目が覚めたのが9時だった。久保さんは顔を反対に向けて寝ている。

「……起きないと」

 すると、僕の腕を誰かが掴む。

「お」

 振り向くと、そこには久保さん。

「へへへ。拓くん。おはよ」

「うん。おはよう。どうしたの?」

「なんか、拓くんが離れそうだったから」

「大丈夫だよ。すぐには帰らないから」

「そっかー。あ、メガネ取ってー」

「はいはい」

 洋服タンスの上に置いてある写真の横に、彼女の黒縁のメガネがあった。

「はい」

「ありがと」

 メガネをかけると、いつもの久保さんだった。

「一緒に起きる」

「そうだね」

「じゃあ、私はまた寝るから拓くんも寝よ」

「後出ししないで。9時だから起きて」

「うーん」

 間延びした返事。もはや、起きないね。

「久保さん。起きて」

「やだ。まだ寝る」

「久保さん」

「まだ寝るってば」

 頑固だなぁ。

「もう……」

 反射的に、僕は彼女の頭を撫でてた。

「あ……」

 気づいた時には、もう遅かった。4往復くらいはしてた。

「拓くん……?」

「いや、ごめん」

「なんで謝るの?」

「いや、はは……」

 彼女が怒ってないのだけは分かった。

〜おまけ〜

 もしも久保さんが起きなかったら


「久保さん。起きて」

「やだ。まだ寝る」

「久保さん」

「まだ寝るってば」

 頑固だなぁ。

「お友達がなかなか起きてくれない。そんなお悩みを持つそこのあなた!」

 ベッドの下から、若葉さんが出てきた。

「わあぁ、びっくりした」

「この久保若葉作の『電気飴』を食べれば眠気もイチコロ。でも、よい子のみんなは授業中に舐めるないでね」

「誰に言ってるんですか?」

「どの作品でも触れてはならない壁に。まぁ、届いてたらいいね」

 若葉さんは電気飴を僕に差し出す。

「これ、電気なんですか?」

「いいや。クエン酸とレモン等、酸味量をふんだんにぶち込んだ。それにより、電気のような酸っぱさを実現。シゲキク○スみたいな。食え」

「はぁ」

 僕は半信半疑で口に入れてみる。

 すると、すぐに電気のようなびりっとした感じが口の中に溢れた。

「うぃ……ん?」

 電気の刺激は一瞬だけ。すぐに、甘さが来た。

「電気部分は薄く作り、舐めて数秒で溶けるように作った。あとは甘いキャンディ」

「すごい……」

「あぁ、ちなみに。酸っぱさを長引かせるバージョンも作ったぞ」

 そう言うと若葉さんは、寝ている久保さんの口に突っ込む。

「これは歩果を起こすためのものだ。クッピーラム○のように、溶ける代物だ。だから、喉に詰まらせる心配はない」

 そう言うと同時に、久保さんが飛び起きる。

「あー、すっぱ……お姉ちゃん……!」

「ちなみに、すぐに溶けるが効果は長引く」

「なるほど。これでお目目ぱっちりですね」

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