ドッキリを仕掛けてみよう!
「なぁ、歩果」
「ん?どうしたのお姉ちゃん」
お姉ちゃんがまともに話しかけてくるのは少し珍しい。
「なんかさ、拓にドッキリしてみたいと思わない?」
「ドッキリ?どんなの?」
「例えばだ。私が歩果にDVをするとしよう」
「う、うん」
「その時、拓はどんな反応をするか」
お姉ちゃんは笑いながら言う。
「確かに面白そうだね。でも、叩くのはやめてね。拓くん、そう言うのは苦手だから。あと、お姉ちゃんに『ドッキリでもやめてください』って言いそう」
「じゃあ、少し抑えて私と歩果が喧嘩を始めるのは?」
「うーわ。それ、めっちゃ気まずいやつじゃん」
友達の家で姉妹が喧嘩したら、絶対に拓くんは“私が悪くなければ”私の肩を持つけど。
「じゃあ、仕掛けるのは私と歩果な。あぁ、ケンカは私が絶対に悪いようにするから心配するなよ」
「演技でも、私たちが喧嘩するのは久しぶりかも」
お姉ちゃんが真面目だった頃はよく喧嘩してたけど。
「よし、シチュエーションはこうだ。私が歩果の部屋に忍び……゛ん゛ん゛ん。入った時に、メガネを落として壊してしまった。それを私は黙って生活をしている。そこで、歩果は拓とゲームをするために着替える。これが一連の流れだ」
メガネが壊れてたのをきっかけに喧嘩を始めるドッキリか。
これなら、拓くんは絶対に私の肩を持つだろう。
「そんなわけで、歩果のメガネを壊しに行こう。リアルさは大事だ」
「実際に壊すと喧嘩どころじゃなくない?」
*
作戦決定の翌日――
「おじゃましまーす」
早速ターゲット(拓くん)をゲームをする口実で家に招いた。
「じゃ、私着替えてくるから準備して待ってて」
「はーい」
何の気なしに、拓くんはゲームの電源を入れて準備をしている。
部屋に入って、壊されていないメガネを見てホッとした。
とりあえず、いつも通りがいいか。私は服を着替えてからコンタクトからメガネに変える。拓くんは私の着替える順番を知らないけど、これもリアリティのイシハナリアルティ。
うぅ。リアリティのためにコンタクトも外した方がいいよね。
ぼんやりの視界の中で、お姉ちゃんと喧嘩するのか。さすがに、拓くんとお姉ちゃんは間違えないけど。
両目のコンタクトを外すと、フィルターがかけられたような視界。
めっっちゃボンヤリ。
手すりを掴みながら下に降りて、少し大きな声を出す。
「おねえちゃーん!どこー⁉︎」
「え、どうしたの?久保さん」
遠くから拓くんの声がする。
「え、目を細くしてどうしたの?」
目をこらしても拓くんの顔は見えない。
「……ごめん。メガネが壊れてて」
「メガネが壊れた?なんで」
「お姉ちゃんが壊したの」
よし。これで導入に持って来れた。
「おいおい。壊したなんて心外だな」
ジャストタイミングでお姉ちゃんが一階の物置部屋(お姉ちゃんの部屋)から出てきた。
「だって、私の部屋を出入りするのってお姉ちゃんくらいしかいないじゃん……!」
「壊してない。転がったら私の潰れた胸がメガネに当たって落ちたんだ。あんなギリギリに置く歩果が悪い。ベッドの真ん中にでも置け」
「真ん中に置いたよ。お姉ちゃんが端に寄せたのを覚えてないんじゃないの?」
お姉ちゃんは頭に指を当てて言う。
「はー?私は頭もいいし、記憶力もいい。そんな私が端に寄せた動作を忘れるわけがないだろう」
嘘と真実を混ぜると、より真実は分かりにくくなる。そんな言葉があるように、お姉ちゃんの頭と記憶力は本物。
あと、胸が大きいのも。
「お姉ちゃんだって忘れるものは忘れるでしょ?昨日の晩御飯も覚えてないくせに」
「バカだな。それはその時の話だ。今は覚えてる」
「言ってみてよ」
「混ぜご飯、しめじと豆腐の味噌汁、千切りキャベツでかさ増しした生ハムサラダ、鮭のムニエル」
合ってる。かさ増し情報はいらなくない?
「私の言うことは全部合ってるんだよ。人を疑う前に自分を疑え貧乳」
「お姉ちゃんだって……うーん……乳じゃなくて頭に栄養いかせろ」
褒め言葉なのか罵倒なのか。よく分からないことを言ってしまった。普段、人なんてバカにしないし。
「あーそうかい。歩果はおっぱいのでかい私が嫌いなんだな」
ねぇ、男の子がいるんだから直接的なのは……
「お姉ちゃんなんて嫌い。すぐにとぼけるし、自分の胸に責任転嫁するし。胸だろうが悪いの自分じゃん」
「あーそうかい。なら、このFカップはもういらないのかね」
そう言ってお姉ちゃんはバアンと、荒々しくドアを閉めた。
音が大きくてびっくりした。
「…………久保さん?」
気まずそうに拓くんが話しかけてきた。
「な、なに?」
「あの、大丈夫?」
「ありがとう。顔が見えなくてごめんだけど」
「歩ける?コンタクトはつけてなさそうだけど……」
んー。この優しさで来られたら後で後悔しちゃう。
「とりあえず、一旦ソファに座ろっか」
私はボンヤリな視界で、ソファに座る。転ばなくて済んだ。
「どうしたの?話を聞く限り、若葉さんが久保さんのメガネを壊したみたいな」
「……だいたい、そんな感じ」
「そっか。久保さんは、本当にメガネを端に寄せてないの?」
「……うん。確かにど真ん中。ど真ん中なら、お姉ちゃんの胸でも壊れないでしょ」
「んー。柔らかいから、そうだね。でも、若葉さんはベッドのギリギリにあったって言ってたよね?」
んー。お姉ちゃん。ちゃんとネタバラシしてくれるのかな?
「これだと、どっちが正しいのかわかんないんだよなー。若葉さんと久保さんの意見は違うし……マンデラ効果かな……いや、それって大勢の人だから違うか」
ブツブツと独り言を言っている。
「ごめん。ちょっと若葉さんに話を聞いてみていい?」
「え……?」
「確かに。でも、僕は2人の仲が治るのを見れないのは嫌だから」
拓くんが立つのが、ソファでもわかる。
はわわわわチワワ。完っっ全に拓くん、心配モードになってる。
「拓くん。大丈夫だよ。落ち着いたら私が聞くから」
「ん?そうなの?」
「そう。お姉ちゃんも根に持つような人じゃないから」
「そっかー」
拓くんは座り直してくれた。
「でも、久保さんと若葉さんの意見が食い違うってことは、どっちかが間違った情報を記憶してるってことだよね。若葉さんのことだから、自分が悪いと思ったら謝るのになー」
え、拓くんってお姉ちゃんのことよく見てるの?いや私がいない間なんて、数分。その数分でお姉ちゃんと仲良くなれるなんて、そうそうなくない?
「え、拓くん。お姉ちゃんと仲良いの?」
「ん?いや。若葉さんってさ、久保さんと所々似てるんだよね。身長とスタイル以外は」
「あ?」
「あ、ごめん」
私の地雷って、体つきに関することらしい。
「でも、早いうちに仲直りした方がいいと思うよ」
「あ、目が悪いから前が見えないか……うーん。僕がコンタクトを付けたいけど、素人だから」
「……いや、大丈夫」
なんなら、メガネ壊れてないし。
「とりあえず、私、部屋に戻る」
「え、大丈夫?僕、付いてこうか?」
「手すりあるから」
そう言って、無理矢理な理由で私は拓くんを引き剥がすように離れる。
部屋に入ってメガネをかける。
「おぉう」
長い時間メガネもコンタクトもしてなかったから、こんな反応。
久しぶりにメガネをかけるような感覚。
目がぱちくりする。
さてと、お姉ちゃんがネタバラシをする気がないなら、私がするしかないのかな?
「んーー……」
すると、私の部屋がノックされる。
「お」
お姉ちゃんが来たか。
「よかったー。お姉ちゃん。来ないから……あ」
目の前にはお姉ちゃんより低い男の子、拓くんが立っていた。
「あれ、メガネ壊れたんじゃなかったの?あ、レンズじゃない方?」
「い、いや……」
妙に心臓が速い。
拓くんは私のメガネを見回す。
「鼻当てもあるし、抑えてないと落ちないほどじゃないけど……あれ、別のメガネが壊れたの?」
「…………いや……うーー」
「ん?」
「ちょっと、来て」
「うん……」
そう言って部屋に拓くんを入れる。
「ごめんなさい!」
私はすぐさま、土下座をした。
「え、どうしたの」
「今までのは、全部ドッキリでメガネなんて壊れてなくて……あの、拓くんの反応を見たくて。姉妹喧嘩をしたら、どうかって……」
「えー、そうなのー?えー……」
拓くんは損したかのように、落胆する。
「心配して損したよね……もう、ここまで来ればなんでもして」
「いや……うーん」
もう、好きにされてもいい。拓くんの気持ちなんて私には分からないから。
「そうだぞー拓。歩果をひん剥いちまえ」
後ろから声が聞こえる。
「お姉ちゃん。いたの?」
「あぁ。そろりそろりとな」
「ま、仕掛け人は私だ」
そして、お姉ちゃんはバンザイのポーズを取る。
「ほれ、脱がせるなりしろ」
拓くんは口を緩ませる。
「そんなことしませんよ。でも、若葉さんも大概ですからね。久保さんを貧乳って言ってましたよね」
「そうだ。私は歩果よりデカい。ほれ、触り合って確かめてみろ。歩果。立て」
「こんなので立つんなら、土下座してた方がマシ」
おまけ
「なぁ、なんで久保が森川の言うことを文句言わず聞いてるんだ?」
「さぁ。でも普通は久保が文句言うだろ。『むり〜』とか『やだ〜』とか。大概、森川は『はいはい』って言うよな」
「でも、それを言わないってことは……」
「あぁ、なんかやったな」




