水乃姉弟
今日は零くんの家にお邪魔している。
どうしてなのか。それは、放課後に遡る。
「……なぁ、森川」
「ん。どうしたの?零くん」
「いや。俺さ、姉貴がいるんだけど。不登校気味でよかったら、話し相手になってくれないか?俺じゃ、話すのがないって言ってたから……」
いつもは、笑ったような顔なのに、今日は真剣な顔をしていた。
「……わかった。久保さん、ごめん。そんなわけだから」
「わかった」
久保さんも意外なメンバーに驚き、少し首を傾げながらも承諾してくれた。
零くんの家は、僕らとは正反対な方角だった。
僕たちが住んでるエリア以外にも、住宅街があるのは少し驚きだった。
「じゃ、森川。上がってくれ」
「お邪魔します……」
靴を揃えるように脱いで、彼の家に上がる。久保さんお家とは構造が結構違った。
玄関には廊下じゃなくて、大きめのドアを開けるとそこは広いリビングだった。
「へぇー。同じような家でも違うのかー」
僕がつぶやくと、零くんは「十人十色ってやつか?」と返してくれた。
「で、話し相手って……」
「んー。重い話もあるかもしれないけど、でも相手がいるだけでも嬉しいと思うぞ。じゃ、呼んでくるからな」
「わかった」
とりあえず、僕は水乃家のソファに座る。久保家とは違って、柔らかい座り心地がした。
と言うか、僕の友達って姉がいる人が多いな。宮野くんはお兄さんだけど。
「……も、森川拓くん?」
反射的に、僕はソファから立ち上がった。
「こんにちは。お邪魔してます」
「……どうも……水乃雫です」
見た感じ、背の高い零くんより結構小柄。150前半くらいかな。
「座って」
「失礼します」
「そ、そんな固くしなくて大丈夫ですよ……それに、同い年なんだから敬語は」
「そうですよね…………ん?同い年?」
呆気に取られて僕は聞く。
「えぇ……私と零は双子で」
「あ、あぁ。そうなんですか」
零くんが言ってたけど、不登校気味。なにかあったのかな?
「そ。俺に似てモテてたぞ」
零くんが戻ってきた。
「零……やめてよ」
「はいはい」
姉弟仲はいいのか。どうして不登校気味なのか。聞くのも野暮だな。見た感じ、初対面の僕を見てビビってないからいじめられてたとかじゃないか。
「森川くん……どっちの方だっけ零。タクアユの」
「タクの方だ」
「え、なに。それ……」
僕が思わず口を挟んでしまった。
「あ」
零くんは思わず、口を塞ぐ。
まぁ、後で聞くとして。まずは雫さんと話す必要がある。メインは零くんの説教じゃないから。
横目で、ほっとしている零くんが見えた。
「……それで雫さん。話し相手が欲しいとは」
「零だと同じ話になっちゃうから。だから、それを話したら『良いやつ連れてくるから化粧しとけ』って」
「お化粧……してるんですか?」
「する気がなくて。家出するのは、違わない?」
「確かに。そうですね」
ダメだ。敬語になってしまう。初対面な上に、お姉さんだからか反射的に敬語になってしまう。若葉さんの時は一応の敬語なのに。
「そういえば、零くんと毎日お話をしているんですね。仲のいい姉弟ですね」
「うーん。私が一方的に話してるだけだと思うけど。ね、零」
「……いや、俺も笑ったりしてるからトントンだろ」
「そっか。あ。森川くんは上か下に誰かいる?」
「僕は一人っ子です」
「一人っ子か。なんか憧れる」
「そうですかね。親の期待が大きくて、少し嫌でした。まぁ、そのせいで離婚を……」
「え……」
やべ。話題間違えた。うっかり、親の話までするところだったし、雫さんの気分を落としてしまうところだった。
「いえ、忘れてください。少し脱線したので」
「そうかな。子供の大元は親だよ」
「そうですけどね……」
一旦、お互い話すのをやめる。間がないとお互い、気を使いそうだから。
「そう言えば私ね……」
「…………」
「……君のクラスで、森川くんと君の友達を見たの」
「そうなんですか」
「なんか、『いいな』って思っちゃった。あの子みたいな友達がいて、毎日が楽しそうって」
「毎日が楽しい……ですか」
久保さん。いつでも僕の隣にいる唯一無二の友達……
「“彼女”意外の言葉を言われたのは、初めてかもしれません」
「そう?意外と付き合ってない感じするけど」
「……それも初めて言われました」
「ねぇ、その子ってどんな子?」
好奇心気味に雫さんが言う。
「直感的で頭より体で動く子です。よく考えたりすると、頭が痛くなるなんて言います。お菓子ばかりで……」
「おー。随分ボロクソだね」
「でも、意外とメンタルが強くて、会話とか行動の主導権を持ってるんです。決めるのが苦手なので、助かってます」
「…………いいね」
雫さんは何回か頷いた。
「欲を言えば、手放したくない。可愛いから、僕以外の子が寄ってこないか少し心配なんです」
「そう言う子は、森川くんだけを気にかけてくれるから大丈夫だよ」
雫さんは肯定をしてくれた。
「そうですね。考えすぎですか」
「……そうだよ。あんまりそう言うのを考えるのは良くないよ。頭がいい人って、そんな考えするよね」
「頭がいい……よく分かりましたね」
「零が教えてくれたもん」
「…………」
僕は無言で零くんを見る。
「零くんって口が軽いんですね」
姉弟に聞こえる独り言のように言う。
「そうかな……あ、確かに。昔から口は軽かったよ。私が親に隠れてお菓子食べてたのバラしてたし」
「……やっぱり、いい姉弟ですね」
「仲は良いと思ってる。この前なんてね……」
*
そこから1時間くらい話して、雫さんは水を飲む。
「はぁー。なんか話したらスッキリした」
雫さんは大きく伸びをした。
「零……」
「なに?」
「明日、学校に行こうと思う」
「え……それ、大丈夫?」
やっぱり、学校に行かない事情があるんだ。
「なんか、自分に自信がついてきた。対面だと、こんなに話せるんだって」
「話せるって……森川だぞ。森川は安心できる要素しかないけど。でも、クラスの奴らだと」
「私にも、1人くらい友達はいるもん」
「……友達か」
「私、友達がいるのに気づかなかった。森川くんと話して、私にも話してくれる友達がいるのを思い出した」
「…………」
零くんは腑に落ちなそうな顔をしている。
「んー……」
「零は、心配しなくていい。私が決めたことだから」
「……敵わないな」
「私は零のお姉ちゃんだから」
*
翌日、零くんと一緒に登校する雫さんを見た。
「どうしたの?拓くん」
久保さんが聞く。
「いや、お姉さんっていいなって」
「え?あぁ、私のお姉ちゃん?やめた方がいいよ。拓くんでも3日で限界だよ」
「違うよ」
雫さんの何かが、変わったらいいかな。




