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【番外編】もしも若葉が参観日に来たら

「ねぇ、拓くんはお母さん来るの?」

 久保さんが聞いてきた。

「うん。来るよ」

「へぇー。来てほしくないとか思わないの?」

「ううん。あんまり思わないよ」



 その話を、私は歩果につけた盗聴器で聞く。

 なるほど。歩果は私を危険視しているのか。何を言ってるんだ我が妹は。何もおかしなことはしてないが。

 でも、とっくに学校に着いたから帰ることはできないか。

「あなた、受付しました?」

 いつの間にか、教師らしき男が立っていた。

「あぁ。まだだ」

「まだって……しっかりと受付してください」

「でも、まだ1時間も受付ができないんだが。だからここにいる」

 歩果の参観だよりを遠目に見たが、親が来るのは3時間目から4時間目だと書いてあった。そうするなら、私は1時間目から2時間目の途中を見て帰る。なぜなら、親に見つかったらやばいから。

「そりゃ、今はホームルーム中ですから」

「1時間目から見たいんだが」

「そうですか……それなら、もう少しで受付できますから。来てください」

「おう、感謝する」

 よかった。護身用にハバネロスプレーを吹き付ける暇はなかったな。というか、横暴な連中はここにはいないか。

「ところで、あなたは保護者ですか?」

「いえいえ。姉です」

「はぁ。失礼ですが、どなたのお姉さんですか?」

「久保歩果の姉だ」

「そうですか……久保は2年ですが」

「あぁ、知ってるさ」

「念の為、身分証を見せていただけますか?」

 おや。この男は私を警戒しているのか。まさか、ハバネロスプレーがバレたか。

「ほい」

 財布から身分証を取り出す。

「久保若葉。2007年12月31日生まれ。身長170センチ、体重50キロ。スリーサイズ」

「あなたが言ってどうするんですか」

 教師は外を指す。

「あそこを出て、まっすぐ行けば受付なので」

「お。そりゃどうも」

 身分証を返され、私は受付に向かう。


           *


「いる……」

 久保さんはヒソヒソとつぶやく。

「え?なにが?」

 ちらほらと保護者はいるが、そこに目立つ人が1人。

「若葉さんだ」

「なんで来てるの……」

 久保さんは大きくため息をつく。

「さすがに、いつも通りなことはやらないでしょ」

「まぁ、そうだけどさ……乱暴しないといいけど」

 すると、若葉さんは胸ポケットから、何かを取り出してクルクル回している。

「なにあれ……」

「え?あー、お姉ちゃんが自作したハバネロスプレー。まぁ、色も香水っぽいから誤魔化せてるけど」

 今度は、テニスボールくらいの丸い白い球をポンポンと手遊びしている。

「あれは?」

「煙玉」

 参観に行くだけなのに、やけに護身が充実している。

「あれは?」

 ハバネロスプレーの噴射口に、何か長いのを付けている。

「射程を長くするアタッチメント。喉スプレーの噴射口をいじったらしい」

「なんでそんな物騒なものを……?」

「お姉ちゃんの趣味が防御に移った感じ。今、正常に動くかを確かめてる」

「いやいや……そんな物騒な参観じゃないでしょ?」

「うん。確実に違う」

 でも、若葉さんの格好はパンツスーツだから一見、保護者に見える。背が高いから目立つけど。

「なぁ、あれ。誰?」

「なんか見たことあるな」

「誰かの姉ちゃんじゃね?」

 そんな声がヒソヒソと聞こえる。

 すると、若葉さんの前に座っている和泉さんが若葉さんと話している。

「え、和泉さんって若葉さん知ってるの?」

「うん。家に来たことあって、その時にお姉ちゃんを見たから」


 私は和泉ちゃんとなんでもない話をしている。

「何をクルクルしてたんですか?香水ですか?」

「いいや。ハバネロスプレーだ。君もいるか?君みたいな女の子は狙われやすいから持ってなさい」

 そう言われて、半ば無理矢理ハバネロスプレーを持たせられる。

「あぁ、ついでにこれもいるか?これは10メートル射程を伸ばせるアタッチメント。で、こっちは30メートル飛ぶアタッチメント。友達記念で両方あげよう」

 そう言われて、両方手渡される。

「あ、ありがとうございます」

 そもそも、なんでこんなの作ってるんだろう。

 その時だった。お姉さんの肩に手がかかる。

「あ……お母様」

「若葉。知らない子にものをあげないの」

「いやいや。この子は歩果のお友達。ところで、3時間目と4時間目の授業を見に来るんじゃ」

「気が変わったの」

 どうやら、クーちゃんの両親も少し変な人らしい。

「若葉。今すぐ帰りなさい。こんなところで油売ってないで」

「は、はい」

 お姉さんはそういうと、クーちゃんに近づいてすれ違いざまに何かを取って教室の前から出て行った。

 そして、お母さんはため息をつく。

「ごめんね。あんな子で」

「いえいえ……あの、面白い方ですね」

「いつからああなったのかは分かるけど、でもあそこまでとはお爺ちゃんも思ってなかったでしょうね」


          *


「ん?お姉ちゃん床水泳は?」

 私は参観から帰って、ソファに珍しく座っているお姉ちゃんを見る。

「しばらく禁止にされた……歩果お友達にハバネロスプレーを配ってたらママに見つかった。ついでに、歩果に仕掛けた……いや」

「若葉。ちゃんと話してね」

 お母さんの声が飛ぶ。

「う…………盗聴器をつけました。でも、しっかりと壊しました。そのせいで壁に穴が開けました」

 お姉ちゃんはどこかずれていた。

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