【番外】水乃零は2人のファン
俺は水乃零。自分で言うのもアレだけど、クラスの中心的な人間。でも、俺は特にその状況には甘えてない。昔から人は寄ってくるけど、まだ俺より人気なやつはいる。
そんなもので、俺は特にやる気がない。
でも、最近。みんなが言う、「推し」と言うものに気づいた。
「零。またアイツらのとこにいんの?」
「おん。面白いぜ」
俺の推しは、森川拓と久保歩果の2人のこと。俺の中では“タクアユ”と勝手にカップルを作っている。
「お前も入ろうぜ。タクアユファンクラブ」
「それ、零が勝手に言ってるだけだろ。本人が聞いたらどうすんだよ」
「まぁまぁ」
チラリと見ると、2人は授業の準備をしていて無言でスマホをいじったりしている。
「拓くん。お手洗い行ってくるね」
「申告しないでよ」
トコトコと、久保は俺を素通りする。
どっちかと言えば、久保は俺と距離を取っている。森川の方が友好的に俺に接している。
前なんて、森川と話してただけで久保が少し睨み気味に俺を見てた。森川も話を切り上げたから、久保を優先気味に見ているのがわかる。
「なんでトイレの報告するんだ?」
「初心者だなー。久保は今、森川に構って欲しいんだ。特に話すことがないから、些細のもので話す機会を作ってるんだよ」
「なんか零。ファン超えてちょっとキモいんだけど……」
その感想で結構。誰がなんと言おうと、俺は2人のファンをやめない。
*
昼休みに、タクアユを眺めているとスマホが震えた。
「お、電話か……悪い。出るわ」
そう言って、通話ボタンを押す。
「どうした雫……あぁ、え?5時間目から教室に戻る?それ、大丈夫か?あぁ、お。じゃ、いいもの見せるからちょっと早めにきてくれないかな……オッケー。分かった。来れたらな」
予鈴が鳴る数分前に、子猫のような姉、雫が来た。
知られてないが、俺たちは双子。
「ほら、あそこに良いものが」
俺が指差した先は、タクアユ。
「あぁ。あの、男の子と女の子……」
ボソボソとした小さな声で言う。
「……確かに、いいものだね」
「な。どう?元気出た?」
「…………うん。ありがとうね。零」
そう言って雫は、隣のクラスに入って行った。
昔から雫は集団が苦手だ。人前で話せないとか、集団に馴染めないとか、そういうのじゃない。
単純に、10人以上の人間の集団が嫌いなだけだと言っていた。昔はよく笑っていたのに、いまは自信をなくして細々としている。
でも、今は教室に戻るために頑張っている。
「…………無理しなくて良いのにな」
俺は心が狭い。
だから、俺はアイツを許さない。




