【正史】直接対決
拓くんが休んで、3日が経った。
「森川来ねぇーな。ま、来ないほうがいいんだけどな」
水乃くんが拓くんの代わりみたいに言ってくる。
「で、久保。あれからどう?」
「うん。陰口はあるけど、直接的なのはないよ」
「じゃ、山西は本当に森川だけを狙ってたのか。じゃ、久保は誤算だったのかもな」
拓くんは山西が空き教室に隠れていると確信していた。
なら……
「和泉ちゃん。協力してくれない?」
「……え?」
びっくりした声で和泉ちゃんは目を見開く。
*
いつ森川が戻ってくるか分からない。
俺はいそいそと、早朝の教室に入る。ここでとどめに森川の机に紙を入れたり、水着写真も……
森川の席は、窓際の一個右の列の1番前。
俺には見えた。
「誰だ」
教卓から、上靴が見える。
「出てこい。こないなら、俺が無理やり出すぞ」
足からして女子。
出てきたのは、メガネをかけた女子。
「…………国木田か」
確か、たまに久保と話しているヤツ。都合がいい、あぁ言う奴ほど従順だし、2人のことをよく知っているはずだ。
「取引しようか。日給は5000円。2人の情報を教えてくれないか?」
国木田の目はしどろもどろ。
「…………」
「早く決めてくれないか?そろそろ、他の奴らが来そうなんだけど」
「…………」
昨日の昼休み――
クーちゃんは私と水乃くんを混じえて計画を話している。
「山西は、空き教室に隠れてるってことはどうやって入ったかなんだよね。さすがに、山西が私たちと同じ時間で登校したら噂になるだろうし、なら、早い時間に来てるんじゃないかな。拓くんの机に落書きしたように。だから、2人とも、早く起きて。空き教室を見張るよ」
*
「早く決めてくれよ」
山西くんが急かす。
でも、私がクーちゃんを呼んだら彼は逃げ出す。
私は捨て身の覚悟で、山西くんに抱きつく。
「は?」
こうすれば、クーちゃんは私が来ないと様子を見に行く。
忘れ物をして良かった。絶好のチャンス。
すると、ガラガラと教室の扉が開く。
「和泉ちゃん。忘れ物に…………山西!」
「クソ……離せ」
私の反発虚しく、山西くんは私を引き剥がす。
「バカが」
そして、クーちゃんを殴るふりをして避けさせると、煙のように逃げていく。
*
なんかいた水乃の脇をくぐり、俺は逃げ出す。
後ろを見ると、久保が追ってきてる。国木田を振り解くのに体力使っちまった。
ここを降りれば、生徒昇降口。
階段を駆け降りて、下駄箱までの道を走っている。
「おっと」
滑りかけたが、下駄箱を出ることに成功した。
後ろで、立ち止まっている久保が見えた。
久保を撒いた。少し足をゆっくりにして、息を整える。
久保は身体能力はあるが、スタミナが無い。森川とは逆だ。
息を切らして教室に戻る。
「みんな、ごめん……和泉ちゃんもチャンスを作ってくれたのに……」
「いいよ」
「だな。動けなかった俺も悪いし」
水乃くんはともかく、和泉ちゃんがせっかくのチャンスだったのに。私が内ばきで外に出る勇気があれば。
足がズキズキと痛む。
「はいはい。反省はそこまで」
水乃くんが手を叩く。
「え……」
「いや、カンペ出てたから」
思わず、後ろを振り向く。
「久保さん。久しぶり」
そこにいたのは、拓くん。見間違えるはずがない。
「拓くん。もう大丈夫なの?」
「うん。1日半泣いて、そこから休んだら、なんか良くなってきた」
「そうなの……拓くんでも、泣くんだ」
「みんな赤ちゃんだったから泣くよ」
拓くんは笑った後、言う。
「で、疑心暗鬼になって泣いて捻くれて。でも、そのお陰で僕は一つの作戦を思いついた。山西の卑怯には、卑怯で返さないと」
拓くんはニヤリと笑った。
「これなら上手くいく。人間、自分が有利になると警戒が落ちちゃうから」
そして、彼は宮野の席に近づく。
「協力してほしいんだけど、いいかな?」
「……え、俺?」
どうして拓くんが、山西の仲間だった宮野の力を借りるのか、少し理解できなかった
*
俺のスマホが何回か震える。
「あ?」
宮野だ。今は機嫌いいから電話にちゃうもんねー。
「よう。宮野。久しぶりだな」
『あぁ、そうだな……』
「あんときゃ、ごめんよ。つい感情的に」
『いいよ。そんなこと』
宮野は意外とあっさりしていた。元々だけど。もう、切ろっかな。
「なんか用?俺を止めても無駄」
『いや。むしろ、嬉しい報告だ』
少し腰を浮かす。
「なに?」
『森川が俺に言ってきた。腹を割って話がしたいってな』
少し、耳を疑った。また今朝みたいに、久保や国木田が潜んでいる可能性がある。
ま、森川だからな。
「じゃ、久保とかを帰らせとけって言っとけ」
*
俺は下駄箱で森川を見つける。
あらかじめ、俺が待ち合わせに指定した。
「本当に久保も国木田も水乃もいないんだよな」
それぞれ、靴箱を開ける。全員、内ばきがしまわれている。つまり、誰もいない。
「先生にも言ってないな?録音してないな?」
森川はポケットからスマホを取り出して、録音アプリを開く。
「ほら、録ってないでしょ?」
「だな」




