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【正史】表面化のアンチ

「なぁ、森川」

 しばらくすると、拓くんのところに宮野が来た。少し私は身構える。

「逃げたほうがいいと思うぞ。山西は、どんどんエスカレートするようなやつかもしれないからな。いや、現にそうだ。あの時の紙も、全部山西が考えて書いたんだ」

 でも、そこまで言っても……

「うん。ありがとう」

 そう言って彼は話を終わらせた。私が関わったりすると、頑固になる。


 でも、問題があった。山西のせいなのか、私たちのアンチが表面的になってきた。

「森川ってホントに久保と付き合ってないのかな?」

「“突き”合いはあるだろ。だって、2人でゲームしてるんだろ?何も起きないはずがないだろ」

 そんな下劣な話ばかり。もう、心の弱い人なら学校に来れなくなるんじゃないかって言うくらいの。

「拓くん……」

「僕は考えた。距離を取ればいいんじゃないかって」

「……うん」

「でも、やっても、向こうは食いつくだけだね」

 拓くんの予想は当たってる感じがしてならない。

「だから、このままが一番」

「ヤリチン」

 すれ違った人から、そう囁かれた。

「…………」

「…………」


             *


「はっはっは」

 俺は笑いながら、電話をしている。

「ヤリチン……いい言葉じゃん」

 実は、今日は何もしなかった。あえて。それは、俺がいない間に状況を知らせるメッセンジャーが欲しかったから。

 学校に復帰した日から、俺みたいなやつを探した。意外といた。だから、その話しかけやすいやつに目をつけて、メッセージを交換して、状況を知らせてもらう。

 俺がインビジブルとして全てを握る。

 さて、次の計画を進めるか。

 森川は心が強いから厄介なんだ。

 だから、体で分からせてやるよ。


            *


 山西くんは来なかった。でも、僕たちは憂鬱になった。

「拓くん」

 僕の衰弱具合を見たのか、久保さんが声をかける。

「なんか、痩せてない?」

「ごめん……食欲がなくて」

「だからお弁当がないんだ」

 その時だった。僕の机にカロリーメイトが投げられる。

「…………」

「それ食えよ。栄養あるぞ」

 零くんが、笑って言った。でも、投げる以外の方法あったよね。

「無理すんなよ。楽しいお前らが見れないから」

 そう言って、お友達との談笑に戻る。

「ん?俺はな、あの2人のファンなんだよ」

「へー。零が?意外じゃん。俺もなろっかな」

「やめろにわか」

 それを皮切りに、和泉さんが駆け寄る。

「私もあげる……気が向いたら食べて」

 渡されたのは、小さなおせんべい。

「……ありがとう」

 そうだった。僕たちには味方がいるんだった。

「久保さん」

「ん?」

「悪いもんじゃないね。嫌われるって」

「やめてよ」

 その言葉は、本気で心配していた。

「ごめん……」


            *


 5時間目の移動教室。

 久保さんはあえて、明るい話題を話している。

「この前、ゲームセンターでぬいぐるみを取ってたらさ、100円無くなっちゃったから両替してたんだよ」

「うん」

 久保さんは本当に優しい。僕を落ち込ませないために、色々考えて話してくれる。

 この件が終わったら、何かお礼をしないと。

「わ……」

 最初は、バランスを崩したのかと思った。でも、彼女の運動神経からそれはありえなかった。

 慌てて振り返る。

「山西……!」

 だが、彼はすぐさま階段を駆け足で降りていった。おかしい。休んでるはずなのに。

 追おうとするが、もう1人に僕も押された。

 でも、答えはすぐそこにあった。

「空き教室か……」

 そう言えば、どの階にも階段が見える空き教室がある。そこに隠れてたのか。

 とにかく、久保さんを運ばないと。


            *


「お前なぁ、なにしてんだよ!」

 俺は電話越しでブチギレていた。

『ごめん……でも、君がやってたから』

「森川を倒すはずだったのに、なんでお前が割り込んでくんだよ。おかげで、手が滑って久保を倒すハメになったじゃねぇかよ」

 やっぱ、仲間は作るもんじゃないな。宮野から、俺は何も学んでないな。もう、コイツとは手を切ったほうがいいかもな。


            *


 2人とも、頭と足が痛くて、授業中なのに保健室にいた。

 雑音がない。

 言えば、善も悪もない。

「久保さん……足、大丈夫?」

 ベッドに転がっている久保さんを見る。

「痛い……捻ったか、骨にヒビが入ってるかも」

「…………」

「でも、拓くん。案外重いんだね。私に乗ってきた時、意外と重かった……あ、でも、足には直接はないから……うん」

「そっか」

 彼女の言葉に嘘はない。

 久保さんはため息をつく。

「もうさ、噂を本当にしちゃう?」

「え?」

「ほら、2人で何も起きるはずがないってね」

「ふざけないでよ」

「……ごめん」

 小さく久保さんは謝る。



 私は、山西を捕まえる方法を考えている。

 そもそも、なんで学校に来てないの?いや、こんなことをするから、捕まらないためにか。

 なんでこう言う時に頭が回るかね。

 聞いた話だと、先生たちも山西の家に電話をしたけど山西が出て学校にくるように言っても拒否をした。

 切り札のごとく、親にも電話したけど「忙しい」の一点張り。

 家庭環境を加味しても、これはやりすぎだ。

 気づくと、拓くんは先生と話していた。

「……拓くん」

 先生は、拓くんのリュックを持っていた。

「…………もう、久保さんに被害が出ちゃったから……しばらく休む」

「拓くん」

「ごめんね。早めにこうしておけばよかったね。そうすれば、久保さんは足を怪我しないで済んだね」

 先生からリュックを受け取り、拓くんは保健室から出ていく。

「…………待って」

 その言葉は、遅かった。



            *



 放課後の時間帯に、森川のことで電話が来た。

「ハハハハ‼︎あんなに見栄張って?かっこいいなー森川。久保に被害を出してほしくないからか。はなから狙わねぇよあんな女。狙うのは森川だっての」 

 森川でも、所詮は男。カッコつけるために休まなかったのか。いい生き様。

 電話を切ると、すかさず電話が来た。

 宮野だ。すぐに着拒してやった。

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