ケンカ寸前(?)
「あのねぇ、何回言えばわかるの?」
「……ごめん」
私は拓くんに怒られていた。でも、それをやった私が悪いけど。
「必要なものは、帰ってすぐか前日に準備をする。僕、何回も言ってるよね?」
「…………」
こうやって怒られている理由は、私が拓くんから借りた3冊の教科書を家に忘れてしまったからだ。自分の教科書は、忘れたか無くしてしまって、勉強をするために借りて持って帰ったらこの始末。
「これじゃ、久保さんが成績悪くなっちゃうよ」
自分の不利益を口に出さないのは、彼は自分より他人主義だから。
「ごめん……」
「これだけ言わないとダメなら……」
すると、私たちの間に彼が入る。
「まぁ、森川。落ち着けよ」
ドッジボールで、拓くんと熱戦を演じた彼が入ってきた。実は、彼と拓くんは少し仲が良くなっていた。
「久保も悪意がないわけじゃないし」
「忘れ物の方がタチ悪いよ」
即答だった。確かに、悪意のない方が相手をイライラさせてしまうし、モヤモヤさせてしまう。
「でもな、言い過ぎじゃないか?久保も、少し泣いてるし」
慌てて拓くんは私を見る。
「………」
「だから、本人が反省してるならもうやめにした方がいいんじゃないか?」
「……分かった。久保さん」
拓くんは私を呼ぶ。
「明日は、持ってきてね。そしたら、もう気にしないでいいから」
「……いいの?」
「うん……僕も、怒るためにこう言ってるんじゃないから……ただ、忘れ物を減らして欲しいから」
フューと、彼が口笛を吹く。
*
思えば、拓くんはジワジワと積もりに積もって爆発するタイプだ。
「ねぇ、僕さぁ。念押したよね」
「ごめん……」
また忘れてきちゃった。後回し癖のある私が、全部悪い。
「昨日、あんなに言ったよ。でもさ、忘れるのは流石に……ダメだよ」
理性を取り戻したのか、少し言葉に詰まっている。
「お、森川。また忘れたのか?」
昨日の男子……水乃くんが入ってきた。
「そ。久保さんがまた忘れてきた」
「んー。森川。もう一回チャンスってやつをくれない?久保に」
「……今日は、久保さんが忘れてきた化学と生物があるんだよ」
「…………生物なら、持ってる」
私の弱々しい声に、拓くんは苦い顔をしながら言った。
「そっか……。じゃ、見せてもらうよ」
化学は、私と拓くんが先生に理由を説明してことなきを得た。
「拓くん……ごめんね」
その謝罪に、拓くんはなんとも言えない顔をした。
「……僕も、ごめんね。強く言っちゃって」
「ううん……私が悪いもん……明日、ちゃんと持ってくるから。約束するから」
「んー……わかった」
拓くんの目から、不信が隠せなかった。
*
翌日ーー
通学路に拓くんはいなかった。
「…………」
まさか、私に嫌気がさしちゃった?
「た、拓くん」
何回も呼んで、隣の席なのに少し引っかかってしまった。
「ん?どうしたの?」
まるで、なんでもないですよと言う風に拓くんは構えていた。
「これ……」
私の手には、生物と化学。数学の教科書。
「…………」
「私、何回も拓くんが言ってくれたのに、忘れちゃった。でも、今日はしっかり持ってきた……」
拓くんは口元を綻ばせる。
「やればできるじゃん」
その言葉に、私の片目は涙が出ていた。
「え、久保さん?」
驚いた調子で拓くんが言う。力が抜けたように、私は椅子に座る。
「拓くん……圧があるからちょっと怖い」
「意識してるつもりなんだけど……そんな怖かった?」
私は涙を拭く。
「でも、本当にごめんね」
「いいよ。これからは気をつけてね」
「うん……」
「お、仲直りした?」
水乃くんが、私たちに話しかける。
「うん、持ってきてくれた」
拓くんは自慢気に、3冊の教科書を水乃くんに見せる。
「いいじゃん。このままだな久保」
「うん……」




