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【正史】アンチの2人④

 山西は森川を見て、これ以上ないほどにやけていた。

「結構手応えあったな」と、嬉々として報告してくる。

 山西の本気の文は、結構森川にきたと思う。

 でも、俺は潮時を考えていた。森川にもバレてきてる。このままじゃ、歯止めが効かなくなって面倒なことになる。

 俺が始めたこととはいえ、引き際は持たないと。

「なぁ、山西……」

「宮野」

「…………」

「次は何すればいいと思う?」

 山西は引き際を持ってないようだ。

「山西……そろそろこう言うのやめないか?」

「なになに。怖くなったの?」

「違う。俺なりにやることはやったと思ってる。だから、俺はもう……」

「でも、僕はまだまだかな」

「これから面倒になると思うぞ。そろそろ、面倒にならないうちに……」

 山西は真顔になる。

「宮野が責任取ってよね。元はと言えば……」

「でも、これ以上やると本当に面倒になるぞ。下手すれば、長期の停学も……」

「停学ねぇ。される以前に相手を先生に言いつけられないくらいにすればいいんじゃないの?」

 山西には何を言っても無駄だった。

 なら、手段は一つしかないのか。リスクを考えるのは後かもしれない。


            *


 山西がトイレに行ったのを見計らって、俺はコソコソと話している森川と久保に近づく。

「森川……」

「ん……」

 驚いた顔で、2人は俺を見る。



 全てを話したら、急に胸が軽くなった。

「なるほど。僕たちが気に食わなかったからか……」

 森川は何回か頷いていた。

「僕たちのことをよく思わないのもわかる。でも、それを陰湿にしたら、やっぱりダメだよ」

「…………あぁ。悪かったな。あの時、押して」

「あぁ、いいよ。でも、なんでそれが出来るのか、僕には理解できない。多分、僕と宮野くんは分かり合えない……厳しいことを言うけど、分かりたくない」

「……そうだよな。俺みたいなやつは、分からないほうがいい。数学より難しいから」

 少し冗談を入れると、2人は笑ってくれた。

「でも、問題は…………山西?がどうなるかだけど」

 久保がつぶやく。

「そう……アイツ、ブレーキがないんだ。無くしたのは俺だけど……」

 気配を感じて振り返ると、後ろには見慣れた顔。山西がいた。

 心臓が締めつけられるのを感じる。

「宮野……なにしてんの⁉︎」

 急に癇癪を起こし、俺に掴みかかる。

「落ち着け……俺は」

「全部お前のせいだから!俺はお前のせいで……!」

 授業前だったのが幸いした。先生が俺たちを無理矢理引き剥がして連れてってくれた。



            *


「おー、森川。終わったね」

 2人が先生に連れてかれて十分。零くんが自習の教室の沈黙を破った。しかも、平然と席を立っている。

「もしかして、知ってたの?」

「あぁ。俺もあぁ言うやつは見てきたから。森川ほどじゃないが詳しいんだ。力になれなくてどうしようかと思ってたけど」

「別に、力になろうとしなくても……いや、零くんだから狙われないか」

「まぁ、その気になりゃ陽キャの権力フル活用して貶めることもできるけど。俺は2人のファンだからな」

 陽気な調子で言う零くん。少し、心強く思えた。

「ファンって……私、アイドルグループじゃないんだけど」

 久保さんが言う。

「え、僕は入れないの?」

「異性だとアイドルって言わなくない?バンドじゃないの?」

「じゃあ、アイドルグループってなに?久保さんだけだとソロシンガーだよ」

「和泉ちゃんいるし」

 久保さんに何をされたかは知らないけど、でも彼女が晴れてる顔をしてて良かったと思う。



            *



 月末に宮野くんは停学から戻ったようだ。

「森川、久保。本当に申し訳なかった」

 全力で頭を下げてた。多分、土下座したがってる。

「いいよ。もう、終わったことだし」

 久保さんが言う。彼女は、こう言うのを掘り起こされるのが苦手だ。

「聞かないとスカッとしないと思うから……山西は俺より停学の期間が長い。あと一週間くらいで戻ってくる」

「ちょっと心配かな」

 僕がつぶやく。

「そん時は俺に言ってくれ。いくらでも先生に言うから」

 宮野くんのその言葉に、嘘はなかった。

「じゃ、信じるよ」

 僕が言うと、宮野くんは顔を輝かせた。

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