【正史】アンチの2人③
「拓くん。帰ろ」
久保さんがニコニコで言ってくる。
「あぁ、ごめん。用事があるから先に帰ってて。余裕があったら追いかけるから」
「そっか。すぐ終わるなら、待つ必要ないかもね。じゃあ、運が良ければまた今度ね」
そう言って、久保は森川に手を振って教室を出る。
「おい、宮野。今のうちに帰ったほうがいいぞ。久保が近くにいるうちに」
俺は、宮野に催促する。久保が近くにいれば、森川は俺らに声をかけない。
「ちょっといい?」
森川の声がして、宮野の肩に手がかかる。
まだ久保が近くに……いや、久保がこの教室から消えたからか。それほど、今すぐにでも聞きたいのか。久保のこと、好きすぎじゃね?
俺と同じように、紙を出された。
「最近2人、仲良いよね。もしかして、僕たち関係で仲良くなったのかなって。まぁ、確認だけどこれをやったのは君たちかな?」
「さぁ」
宮野はやけに冷静だ。
少しドキドキした俺とは違う。
「んー……まぁ、仲が良くなるのはいいことだけど、こう言うのはやめてほしいかな」
「だから、俺たちじゃねえって」
俺も宮野にまじって加勢する。
「違うか。じゃ、誰だと思う?僕はね、小さいときは人の顔色を見て生きてたんだ。だから、クラスの空気も少しわかる。みんな、肯定的に僕たちのことを見てくれてる」
「そんなの、少ししかわかってないじゃないか。裏の顔なんて見抜いてないくせに」
俺がすかさず、指摘する。そうすれば怯むはず。
「確かに。でも、少なくとも良く見てくれる人はいる。和泉さんに、加藤さんに零くん」
「…………」
反論する隙がない。俺らの言葉を潰す気か?
「なぁ、俺ら帰っていいかな?」
宮野が森川に言う。
「俺らはなにもしてない。以上、終わり。これで終わりなんだ。俺らはなにもしれない。それに、俺らが仲良くなったのは偶然。あの時は、確かにお前らのことで盛り上がってた。でも、悪く言ってすまないと思ってる。それに、誰がいつ仲良くなるかは新学期の時だけじゃないだろ?」
宮野の言葉に、確かにと思った。聞いた話だけど、森川と久保も。小6の秋くらいだと言ってた。
「…………」
さすがの森川でも黙っている。
「ま。そう言うことな。久保に追いつけよ」
宮野はそう言うと、森川を横切る。
「ちょっと、待ってよ」
森川が宮野に近づいて、腕を掴むが宮野は全力で振り払う。
力が強かったのか、机に体をぶつけてそのまま机ごと転ぶ。その机は中身が空っぽだった。
それに俺は、味を占めた。
「いい気味だな……俺らに、散々因縁つけて。恥を知れ!」
そう言って、宮野と一緒に教室を出る。
帰りの通学路――
「いやー。すげーな。宮野。クールすぎ」
「な。意外と役に入り込めたわ」
宮野はさっきと違う風にハイテンションで言う。
*
僕は、倒れている机を見ながらしばらく……どれくらいかは忘れた。固まってた。
あの2人がやったことに違いない。やってないなら、あんなに理屈を並べない。大体、テンパって「いやいや、やってない」で終わる
でも……
「なんで、あんなことが出来るのか……僕には分からないよ」
久保さんがいれば、一言や二言は言ってくれるはず。僕は意気地なしだから、そんなことはできない。
僕は、久保さんがいないと何もできないのかな。
「はー……ふぅ…………ふぅ」
顔を覆って、泣いた。
帰ってから、寝てばっかりだった。母への晩御飯も作らず。お風呂に入るために下に降りたら母がいた。
「拓。ご飯食べたの?」
「……うん。食べた……ごめん。全部、食べちゃった」
多分、母は知ってる。お茶碗もお箸も使ってないから何も食べてないくらい。
「そっか。まぁ、私のことばっかり考えるの疲れるでしょ。たまには、好きなことやってね」
「…………うん。ありがとう」
お風呂に入って考える。いや、前からそれしか考えてない。
なんで、あの2人は僕たちを貶める。
気に入らないから?そう思ってくれて結構。でも、それをわざわざ“陰湿”に昇格させないでほしい。
多分、何か起こさないと僕はされるがまま。
でも、矛先が久保さんに向いたらどうする……
それは、僕は考える最悪のケース。久保さんはあぁ言う陰湿なのは繊細になる。
お風呂から上がると、スマホが振動していた。
「久しぶり……」
着信欄には、“久保さん”の文字。
「もしもし?」
『拓くん。さっきお姉ちゃんがね』
「うん……」
久保さんを守りたい。強くそう思った。
*
翌日――
いつも通りクラスに入ると、またくしゃくしゃの紙が僕の机に置かれていた。
「あれー?誰かが野球したのかな?」
久保さんがおどけている。
「それやる人、もういなくない?」
ほどよく突っ込んで、捨てに行くふりをして中を開く。
“お前は久保を都合のいい穴だと思ってないか?”
この“穴”がやけに大きく書かれている。久保さんを異性としては見た。でも、性的部分を考えたことはない。
ビリビリにして、捨てる。
「そんななはずないでしょ……バカなのかよ…………」
*
私は、拓くんが紙を捨てに行ったのと同時にこの前の噂ボーイズを見る。
やっぱり、いる。しかも、拓くんを見ている。
これは、黒で確定。
拓くんが戻ってくる。
「拓くん」
「ん?」
「やっちゃおうよ」
その意味を理解したのか、驚いた顔をする。
「でも、2人の言葉は核心をついてるって言うか……のらりくらりしてるんだよ」
「ならさ、動かない証拠探そうよ」
「動かない証拠って……そうだね」
拓くんは、ポケットからさっきと同じような紙を取り出す。
まさか、拓くんに繰り返しやってたなんて。これはもう、「やめてほしい」と言って聞かせるレベルではない。




