【正史】アンチの2人②
俺たちはトイレに行くふりをして、廊下に出る。
「結構、いい感触だったよな」
俺が成功を喜んでいる。
「な。森川も動揺してくれて良かったよ」
「でも、あの後なんて言おうとしたんだ?」
「森川も男だし、知らずに手を出してるかもしれないってな」
聞くからに、森川がキレそうな言葉だ。
「危なかったな。あのままだったら殴られてたかもな」
「は。無理だろ。森川だぞ。痛くもないだろ」
*
まだ、僕の中であの言葉が引っかかる。
『なんか、都合のいいやつって思ってそうだよな』
どうしても、気にしてしまう。僕は、友達失格かもしれない。
「拓くん」
久保さんが声をかける。
「ん……」
「一緒に帰ろ」
その笑顔に、邪な気持ちはなかった。
「……うん。そうだね」
気にしすぎなんだな。周りの噂ばかりに流されて、僕は自分の思ったことを言えない。そうはなりたくない。
「帰ろっか。久保さん」
「うん。今日ね、和泉ちゃんがね――」
*
「昨日見たけど、なんの問題なく2人は帰ってたぞ」
山西が急ぎながら報告してきた。
「は?昨日、あんなに吹き込んだのに?んー……」
「じゃ、ターゲット変えるか?久保に」
「んー……女子って何かと面倒なんだよな」
女子の力は底知れない。俺たちのことがバレて生活に支障が出ると面倒だ。
「でも、見る限り、久保と仲のいい女子なんて国木田と加藤くらいしかいないぞ」
2人ともあまり友達は多くない方の女子だ。
「んー……なら、安心か」
*
「んー……」
昨日の拓くんの顔が気になる。なんか、顔が暗かったしやけに考え込んでた。
ここは、甘いものを買わないと。お財布を開くと、ジュース一本を買えるお金しか無かった。
「げ……」
拓くんの……分だけ買お。炭酸が嫌いらしいから、いちごミルクか……
すると、話し声が耳に入る。
「森川?あぁ、久保の隣にいるやつか。いつも一緒だよな。席も隣だわ、行きも帰りも一緒だしな
そうかそうか。拓くんも噂されるくらい有名になったか。なぜに誇らしくなった。
でも、その後に聞こえたのは聞きたくもない言葉だった。
「なんか、友達の一線超えてるよな」
「それな。もう、1発くらいやってるだろ」
何を言ってるんだろ……いくら噂してもいいけど、そんな言葉を言われる筋合いはない。
「いやいや。1発どころじゃないだろ。2人とも強そうじゃん。性よ……」
大股で2人に近づく。
「ねぇ……」
我ながら、冷えた声だと思う。その2人は肩を振るわせて私を見る。
「勝手な噂は、放課後にしてもらえるかな」
そう言って、その場から立ち去る。
*
「怖い怖い……」
山西は震えるふりをする。
「まさか……久保が反抗するなんて思わなかった」
「な……森川とは違うのか…………これ以上噂したら何されるか分かんねぇな。しゃあね。怖いけど、森川を中心にするぞ」
山西はニヤリと笑う。
「ま、久保よりマシか。あいつ、自分のことあんまり言わないもんな……ま、前みたいに机叩かれたらやばいから、陰湿に行うぞ。仕返しのできないくらいな」
*
平坦なつまらない授業を受けていると、机に紙が落ちていた。
「……?」
久保さんからかな?と思ったけど、今彼女は熟睡中。
くしゃくしゃな紙を開くと、そこには文字が書いてあった。
“久保はお前をなんとも思ってない”
そんな言葉が書かれていた。キョロキョロと、辺りを見回す。
さすがに、あからさま過ぎた。先生に注意されて、久保さんも先生に起こされた。
なんとも思ってないか。じゃあ、なんでこんな関係が5年も続くのが聞きたい。
きっと、この前の人たちだ。
えっと、山西くんと宮野くんだっけ。でも、そんな仲の良かった記憶はない。なるほど。僕たちの仲が気に食わなくて手を組んだのかな。
まぁ、久保さんに被害がないなら良いかな。
こんな低俗な嫌がらせ、すぐに終わる。やってることを指摘すれば、ぴたりと止むはずだ。
授業が終わって久保さんがトイレに行った隙を見て、僕は後ろの山西くんの席にクルリと後ろを向く。
「ねぇ、山西くん……」
「ん?珍しい。森川が俺に話しかけるなんて」
「うん……この手紙、君がやったの?」
僕はさっきの授業の紙を出して見せる。
「さぁ、知らね。なんで俺に言うのかが分かんねえ。俺と森川じゃ、接点ないじゃん」
証拠あんのかと言うかと思った。そう言えば、犯人で確定だけど。
「……んー。そうなんだけど、ほら、僕が机を叩いた時、なんか言ってたでしょ?」
「あぁ、あの時か。ごめん。話に花が咲いちゃって……」
「そっか」
目が違う。申し訳なさなんて、微塵もないようだ。
今度は、宮野くんに聞いてみるかと立ち上がると、久保さんがトイレから戻ってきた。
「…………」
また、後でやろう。久保さんに心配はかけたくない。
「ねぇ、拓くん」
「ん?」
「さっきの授業寝たからさ、もう、全部がスッキリして見えるの」
「そっか。授業中に寝るのも、悪いものじゃないかもね」




