【正史】アンチの2人
俺たちは、あの2人が気に入らない。
「ねぇ、拓くん。今日もゲームしよ」
「ダメ。もう少しでテストでしょ?勉強しないと」
「じゃ、一緒に勉強してゲームしよ」
「んー……脳の活性化にゲームはいいそうだから……じゃあ、ゲームはちょっとだけね」
あの2人が俺たちは嫌いだ。あんなに距離が近くて、家の行き来がある。明らかに、付き合ってるとしか言いようがないのに……
「お、ゲームするの?俺もいい?森川」
水乃が手を上げて言う。
「えー、ちょっと無理かな」
しかも陽キャの水乃も2人のことを見守ってるし。
勉強にゲームを挟むと夢中になる。
森川はそれを分かってるのに久保に付き合う。なんか、気に食わない。
「ほら、授業始まるから。久保さんは準備してないじゃん。教科書出しな」
「はーい」
しかも、席も隣同士。久保も森川の邪魔をしたくないのか授業中は喋んないし。
「腹立つよな」
「な」
山西が頷く。
「お。お前もこっち派か」
「あぁ、なんか優等生とちゃらんぽらんのコンビって感じで気に食わない」
いつの間にか俺たちは仲が良くなっていた。同じターゲットの悪口を言って。いつの間にか意気投合していた。悪友なんてそんなもんだ。
「どうせ、勉強もせずにゲームするんだろうな」
「やっても保健体育だろうな」
*
「はい。また僕の勝ち」
僕は久保さんを3回も負かした。
「さ、久保さん。頭の体操のゲームは終わり。そろそろ勉強するよ」
「勉強……やだ」
「やだやだ言うより、やった方がいつの間にかやってるから」
僕は久保さんのカバンから、教科書を取り出そうとカバンを開ける。すると、ガサっと袋の音を感じる。
「あ、またお菓子ある」
「う……」
「いつの間に買ったの?」
「…………一週間前です」
「じゃ、難しい問題7問ね。やるまで終わらせないから」
僕はノートと教科書を取り出して、問題を書く。
「ひーーーー」
「でも、ちょっとひねればできるから……これが終わったから自由に休憩していいよ。お菓子も食べていいから」
*
「加藤から聞いたけど……」
「あぁ……」
「どうやら、久保には背の高いお姉さんがいるらしい。しかも、森川に会ったことがあるとか……」
「わー、姉妹揃って森川かよ。しかもやることやってるかもな」
「ワンチャンあり得るな。姉妹揃ってかもしれないなしな」
俺たちは変にニヤニヤした。
「久保もだよな。森川ばっかりにくっついて……視野が狭いんだよ。“あの人がいれば大丈夫”って思ってんだろうな」
「森川も。久保とばかりつるんで他に友達がいないよな。“久保さんさえいればいいや”って感じだよな」
「やっぱり、付き合ってないとか無理があるって……」
「…………お」
俺は、なにかいいことを思いついたような気がした。
「どうした?宮野」
「山西。いいこと思いついたんだよ」
「……ん?」
興味津々な目で、山西は顔を近づける。
「仲がいい人同士ってさ、逆に遠慮して聞きたいことも聞けないことがあるんだよ」
「……あー、なるほど」
「どっちに吹き込む?憎い方にする?」
山西はワクワクした表情を見せる。
*
「さて、そろそろ休憩は終わりだよ」
化学の勉強を一仕切り終わらせて、久保さんを見る。
彼女は、ソファベッドでぐっすり寝ていた。規則的な寝息は、まさに寝ている証拠だ。
「……やれやれ」
起こすわけにはいかないので、若葉さんの部屋をノックする。
「ん……歩果どうした?」
若葉さんが出てくる。
「あれ、拓くんじゃないか。どうかしたか?」
「寝ちゃったので……起こすわけにはいかないので帰ります」
「おや。いいのか?私ならともかく、君なら文句も言わずに起きると思うぞ?」
「いえ。そう言うわけにはいきません。母のご飯も作らないといけないので……」
「お、君は偉いね。わかった。歩果には伝えておく」
「ありがとうございます」
そう言って僕は、久保さんの家を後にした。念の為、もう3問くらい問題は作っといたけど、気づくかな?
*
「で?結局どっちにやるんだ?」
山西は楽しみそうに身を乗り出す。
「1人になったタイミングがいい……俺が嫌いなのは森川だ。久保が昼休みにジュースを買いに行った隙を狙ってやる」
*
「あ、久保さん。昨日問題作ったけど、やってきた?」
お昼で思い出して、久保さんに聞いてみることにした。
「やったよ」
机の横にかけたカバンから、ノートを取り出して僕に見せる。
「うんうん……あ、2番がちょっと違うね。ここはマイナスだから?」
「あ、プラスか」
「そ。よくあるケアレスミスだから、気をつけてね」
「はーい」
久保さんは水筒を確かめる。
「あ、水筒が終わってる……ちょっと買ってくるよ」
「はーい」
そう言って久保さんは、スキップを混ぜながら教室を出て行った。
「やれやれ……」
すると、やけに僕の耳に入る声が響く。
「なぁ、久保って森川をどう思ってるんだろうな」
「どういうこと?」
「なんか、都合のいいやつって思ってそうだよな」
陰口か。確かに、肯定と否定は紙一重。快く思う人もいれば、よく思わない人がいる。
「森川って、勉強もできてなんでも知ってるしな」
聞き流せ。陰口なんて、何回も言われてきた。今更、後ろ指を刺されてへこんでる暇は無い。
「だから久保も利用しやすいんじゃね?」
利用?違う。久保さんは僕を利用しようとは思ってない。だって、どうしてその関係が5年も続くの?普通、そう言う関係って一年も続かないでしょ?
「それに、森川も男だし……」
バン――!
その音が教室に響く。
教室が静まり返って、全員が一斉に僕を見る。
聞きたくなかった。一瞬でも。いつの間にか、机を殴りつけていた。
そして、その音源を睨む。
「おい、森川。虫でもいたか?」
零くんが露骨に心配している。
「ごめん……」
僕が睨みつけていた方を見る。
「ま、気にすんなよ」
そのタイミングで、久保さんが戻ってくる。
「ただいまー。拓くん……あれ?なんかあった?」
「え?」
「顔、暗いよ?」
その言葉に、反射的な無理矢理な笑顔を作る。
「大丈夫だよ……」
久保さんは、僕を利用してない。そう自分に何度でも言い聞かせていた。




