反省と仲直り
私は着替えず、バッグを放り出してはベッドに転がる。
「はぁ〜〜〜〜」
なんか、自分が嫌になった。
拓くんは心配してくれるのに、私はいらっとしてあんなことを言ってしまった。言葉にするのは違うけど。でも、あぁ言わないと拓くんは変わらない気がする。心配しなくていいのに。私を心配してくれるのは分かる。
でも、子供扱いされてるみたいで嫌だ。
『じゃあ言うよ。ウザい』
「うぅぅぅぅぅ〜〜あぁぁぁぁぁ〜〜〜〜」
バンバンとベッドのマットレスを叩く。
自分の言葉を思い出すと、なんか急に恥ずかしくなってきた。なんであんなこと言ったんだろ。
イライラしてたのは事実。
でも、言うべきじゃなかったな。
謝らなきゃ。そう思うのは結構遅かった。草餅事件以来だ。「私も言い過ぎた。ごめん」くらいで落ち着いたはず。
ダメだ。こんなので伝わるはずがない。多分、拓くんも結構怒ってるはず。
すると、ギィと部屋の扉が開く。
「妹よ。なにか困り事か?」
お姉ちゃんが顔を覗かせた。
「実は、拓くんとケンカしちゃって……」
「ほう。詳しく聞かせてもらおう」
全貌を話し、お姉ちゃんは何回か頷く。
「なるほど。そりゃ、強い言葉を使った歩果が悪いかもな」
「うぅ。そうだよね」
「じゃ。謝ったら、今度は速さを強くしよう。誠意を見せるんだな」
「ん?…………お姉ちゃん!真面目にやってよ。それ、違う意味の“せいい”だから」
「バレた?じゃ、真面目モードの若葉ちゃんを出しまーす」
お姉ちゃんは無駄に咳払いをする。
「とにかく、反省してる旨を伝えて謝ることだな。言えば、歩果ができるのはそれしかない」
「う……」
昔の真面目なお姉ちゃんだった。
「だから、謝ることに全振りだ。真の誠意を見せろ。許してもらえなくてもいい。ただ、謝罪と感謝の気持ちを伝えろ」
「う。うん」
私はスマホに手を伸ばす。
すると、お姉ちゃんが手を掴む。
「なにしてんだ?」
少し声が低かった。
「……いや、会う約束を」
「そうか。メールで済ませるものだと思ったよ」
「私でも、そんなことはしないよ」
メッセージ画面を開き、文面を考える。
「歩果?」
私は通話に切り替える。
でも、お姉ちゃんは何もしなかった。見捨てたのか、それとも何かを期待したのか。
いつもよりコールが長かった。いつもは3コールで出てくるのに。
すると、声が聞こえる。
『もしもし?』
「拓くん……」
『…………』
「あの、家に来て欲しいの……」
『え?メールで言えば良くない』
拍子抜けた声が聞こえる。よく聞くと、何かの音楽が聞こえる。
『んー。ちょっと時間かかるかも』
「…………なにしてるの?」
『ちょっとね。じゃ、待っててよ。できるだけ早く帰るから』
そう言って拓くんは電話を切った。
「……?」
「なんか、怪しいな。じゃ、私は念の為に外に出るぞ」
そう言ってお姉ちゃんは私の部屋から出ていく。
「え、なんで…………変なことしないからね?」
*
1時間後に拓くんは家に来た。
手には、何かの袋を持っていた。
「拓くん。なにそれ……」
拓くんはすっかり制服から私服に着替えていた。
家に帰ってから、何かのお店に行ったのだろう。
「あぁ、あとでね」
首をかしげながらも、拓くんを家にあげる。
ソファに隣り合わせで座る。
拓くんは驚いたような顔を向ける。
「ねぇ、拓くん……」
「ん?」
「ごめんね。私、言い過ぎちゃった……色々」
1時間たっぷり考えたのに、結局口から出てきたのはこれしかなかった。
「…………僕も、心配し過ぎたよ。和泉さんが言ってたよ。久保さんは、もう子供じゃないんだって。だから明日、謝るために」
拓くんはさっき私にはぐらかした紙袋を見せる。
「これを、せめての誠意でね。渡そうと思ったんだ」
顔を見て開ける許可を貰って中を取り出すと、それはガラス製のイチゴと、同じ素材のイチゴの花がガラスイチゴに台座のように置かれている。
「でも、誕生日は……」
言いかけてやめる。これは、仲直りの記念として取っておこうか。
「いや。でも、なんで私は名字で、和泉ちゃんは名前なの?」
なんでもない疑問を代わりに言ってみた。
「えー、秘密だよ?」
拓くんがいつもの笑顔で言う。もう怒ってない。多分、お互いに反省するところがあったから。
「実はね。名字がちょっと、言いにくくて……」
「えー?私は言いやすいからそのままなの?小学校の時からずっとじゃん。変えようよ」
「やだよ。てか、なんで僕の隣に座ってんの?」
*
拓くんが帰って、私はガラスのイチゴを部屋に飾る。
飾ったのは、今は使ってない目覚まし時計の隣。
「……ふふ。いいね。かわいい」
拓くんの誕生日はまだ先だけど、何を買おうか悩んでいた。




