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ぬいぐるみ

 中間テスト前。僕は久保さんの家で勉強している。別に、なんらやらしことはない。それが本命ではない。僕は数学がまぁまぁできるから、教えているところだ。

「で、ここを移項して……って、聞いてる?」

「ヨクワカラナイ」

 ダメだこりゃ。頭がパンクしかけてる。

「じゃあ、ちょっと休憩しようか」

 “休憩”と聞いて久保さんはベッドに飛び込む。単純な人。

「……ん」

 僕の横には、無造作に置いてあるクマのぬいぐるみがある。久保さんの部屋には、ぬいぐるみが三体くらいいる。

 ベッドにいる二体。で、僕の目の前に転がっている一体。僕はそのぬいぐるみを手に取る。

「やい、く……歩果あゆかよ」

 久保さんはその声に気付き、僕の方を見る。

「あんた、テストで何点を取る気かね。僕は安心できないよ」

 手を動かしたり、地味にかわいい裏声を出してぬいぐるみに声をあてた。

 久保さんもノリがいいのかそばにいたシマエナガのぬいぐるみに声をあてる。

「歩果はな、せめて赤点を取らなきゃいいってよ」

 このシマエナガのぬいぐるみはオスなのか、太い声を出す。普段の高い声はいずこへ。

「それじゃ、両親がかわいそうだよ」

 僕も負けじと対抗する。

「歩果の両親は、赤点さえなければいいってよ。そういえば、歩果の友達はどれくらい取る気なんだろうね」

 つぎはこっちか。

「得意な教科を伸ばしたいってよ。ハハハ。歩果より偉いね」

 久保さんは少しムッとしたような表情をする。

「なら、苦手な教科はどうなのかな?」

「いや、うーん」

 ぬいぐるみの首をかたむける。

「苦手を克服しようっていう点では、歩果が偉いぞ」

 ガーンという音が鳴り響いた。

「って。なにこれ」

 シマエナガのぬいぐるみをベッドに置き、元に戻った久保さんが笑みを浮かべながら言った。

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