忘れ物
久保さんから寝坊したという、メールを貰った教室。しかも準備しながらこれを送ったんだから、じわじわ来る。
「おはよー」
その声を合図にチャイムが鳴る。
「あれ、ギリギリだったね……えーー⁉︎」
僕の目の前には黒縁のメガネをかけた久保さんだった。
「え、どうしたの?メガネだけど……」
「コンタクト切らしちゃった。だから、今日はメガネかけた」
「あぁ、そう……」
教科書以外で忘れ物をする久保さんは珍しかった。というか、自分の周りだけはしっかりしてるのに……まぁ、犬も歩けば棒に当たるし、河童も川に流れるか。
「…………」
というか、メガネの久保さんを見たのは久しぶりかも。
たしか、古着屋(第10話 久保さんのお姉さん)の時だったような。
*
「ていうか、久保さんってどれくらい目が悪いの?」
「え?」
聞けそうで聞けなかったのを、お昼時に聞いてみた。
「そうだね……」
メガネを外した久保さんは、見慣れた顔で言う。
「近くにいる人の顔がとんでもなくぼやけるくらいかな……久保だけに」
「……フ、フフフ」
「あとね、お米の粒が見えない。ただの白い塊」
久保さんは箸でお米を掴む。
「それにね、おんなじ色のものが塊に見えるんだよね。緑じゃない方の鉛筆を机に置いたら、鉛筆が見つけられないくらい」
「そんなになんだ」
「そ。まぁ、不便と言えば不便だね。でも、明日は大丈夫。お姉ちゃんにコンタクト買ってくるように言ったから」
帰宅後ーー
「おねーちゃん。コンタクト買った?」
「買ったぞ。ついでにお釣りでアイスを買った。食べるか?」
「え?食べる!」




