野良ネコ②
下校時間だった。
僕と久保さんは、くだらない話をしながら帰っていた。
「あ、ネコだー」
最近見てなかった三毛ネコ。
久保さんはすぐさましゃがんでネコを撫で始める。
「わー、かわいいー」
僕は立ったままネコを撫ででいる久保さんを見る。
「見るたびに撫ででない?」
「え?卓くんって私がネコ撫ででるの何回見たの?」
「何回って……あんまり見てないけど……」
「ほらね」
久保さんは首周りを掻き始める。
「……ん?どうしたの?」
「いや、ネコを触っちゃうと痒くなる……」
反射的に、僕は久保さんの腕を引っ張って無理矢理立たせる。
「卓くん?」
久保さんは慌てている。
「久保さん、多分猫アレルギー……」
「アレルギー?」
引きつった顔から、急に笑顔になる。
*
「いやいや。私、アレルギーなんて」
アハハと笑う私。
「とにかく、アレルギーだから……」
卓くんは真剣にそう言っている。
「いやいや。勘違い」
すると、卓くんは私の肩を強く掴む。
「アレルギーを舐めるな!笑ってられるのも今のうちだぞ!」
「…………」
「昨今、アレルギーに甘い考えを持つ連中が多すぎる。『アレルギーが甘え』だ?そんなステレオタイプな人間は滅んでしまえ」
独り言のように呟き、卓くんははっと我に帰った。
すぐさま、私の肩を掴んでいた手を離す。
「今すぐ走って……ダメか。久保さんの家までここから6分……久保さん。僕の家に行ける?」
「え?分かった」
半分、怖さで卓くんを見ていた。
卓くんの家に入ってから私は上着を脱ぐように言われた。そして、卓くんは私の脱いだブレザーを、ハンガーにかけてコロコロで綺麗にしていた。どうやら、毛を取るためらしい。
「でも、痒みだけでよかったよ」
卓くんはなだめるように言う。
「重い人だと、アナフィラキシー起こしちゃう人もいるから」
「…………」
「ほんとに、さっきはごめんね」
卓くんは私の前で正座をして手を合わせて謝っている。
「……いや、私もアレルギーに対して軽率だった…………でも、なんでこんなにアレルギーに気を使うの?卓くん、アレルギーとか無いでしょ?」
「………………小学校四年生の時にね」
おもむろに卓くんは話し始める。
「アレルギー持ちの子がいたんだよ」
「うん……」
「でも、その担任が昭和の考えを持ってる常識外れな教師でさ。『アレルギーなんて好き嫌いだろ』って、その子のアレルギーをわかってくれなかったんだよ。その時の記憶が、どうも残ってるんだ。別に、忘れたいわけじゃないよ」
「…………」
「結局、その子は転校したよ。学校も対応はしてくれたらしいけどね。でも、怖かったのかもしれないね。あんなクソ教師と一緒にいるってだけでね」
卓くんが汚い言葉を使うのは、少し珍しかった。
「でも、久保さんが軽いアレルギーで良かったよ。あぁ、いつでも帰っていいよ」
「そういえば、卓くんの家に上がったのは初めてかも」
私はなんとなくだけど、笑った。
卓くんも安心したのか、少しだけ笑っていた。




