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怒らない人

「そう言えば、卓くんって怒ったことないよね」

「なに?どうしたの?」

 私は卓くんに思い切って聞いてみることにした。卓くんと一緒にいて、彼が怒ったことなんて一回もない。

「そう言えば、お姉さんが『怒ると怖そう』って言ってたね」

 ニコニコな顔で答える卓くん。

「ちょっと怒ってみてよ」

「そんな無茶な……」

「じゃ、やってみて。ほら、たくさん勉強したノートを私が無くした時のシチュエーションで」

「だから……」

 私は手を叩き、頭を下げる。

「卓くん。勉強ノート無くしちゃった」

「んー……」

「無くしたの、3日前なんだよ」

「それは……」

「カット!カット!」

「監督かな?」

 卓くんは控えめにツッコミを入れる。

「そうじゃない。イラっとしてみてよ」

「そりゃ、イラっとしたよ。『なんで無くした日に言わなかったの』って」

「言う前にカット入れられたんだけど?」

 なるほど。おおむねは私のせいだったのか。

「こう見るとさ、役者さんって尊敬しちゃうよね」

「そうだね……て、なんか終わらせようとしてない?」

「そうだよ。おしまいだよ」

 危なかった。納得して終わるところだった。

「えー……」

「じゃあじゃあ、逆に何されたら怒る?」

 終わらせないために、質問をして聞いてみることにする。

「何されたら…………?んー」

「あ、この前卓くんのスマホが開いてたからうっかり検索履歴見ちゃった」

「は?え、ちょっと」

 一瞬、声が低くなった。あれ?なんで慌ててるのかな?

「あれ、見ちゃいけないものでもあった?」

「いや……無いけど……」

 急にしどろもどろになる。

「ふーん……」

「ねぇ、嘘だよね⁉︎嘘だと言って久保さん」

 なんか、乱れてる卓くんもいいかな?

「さぁ」

 立ち止まる卓くんを素通りする私。

「え?ちょっと?答えは?」

 慌てて追いかける卓くんがなんだか可愛かった。

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